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45.ロストバージン(2)

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 指先を動かすことすら億劫なくらい智奈はぐったりとして、キョウゴの言葉に笑おうとするのにままならない。躰は果てた名残で規則的な痙攣を繰り返している。
 キョウゴは智奈の膝を裏から持ちあげつつ開脚させた。ひっくり返った蛙みたいな恰好になっても、抵抗はおろか、恥ずかしいという訴えは呻くことでしかできなかった。
「そのままリキまないほうがいい。一カ月かけて慣らしたつもりだ。きっと少しはラクになってる」
「怖がって……なぃ」
 キョウゴは無理やりさきに進むことはないと云っていたけれど、それは智奈の気持ちの問題だけでなく、痛みを軽減するためでもあったのか。そうわかって驚きながら智奈がそう云うと、キョウゴは脱力した様で笑う。
「そうあってくれ。これからさきも」
 云った直後、キョウゴは互いの中心を合わせ、するとディープキスのような濡れた音がした。
 間を置かずしてキョウゴが慾を押しつけると、智奈の秘口が開いていく。
 んっ。
 指とは段違いに太い。それはわかっていたけれど、その感覚も思っていたのとは段違いだ。痛みはないけれど、きつくて、そのきつさがキョウゴの形を浮き彫りにする。程なく、侵入はまだ浅いけれどぴたりと嵌まった感覚がして、智奈は喘いだ。まるで、獲物の一部をぱくっと咥えこんだような感じだ。
 キョウゴはどんなふうに感じているのか、呻き声を漏らして、そこでとどまった。浮いていた智奈の足がベッドにおろされると、開脚したままキョウゴが膝をつかんで閉じられなくする。そうして腰を引くと、キョウゴのオスが抜けだした。
 ん、んんっ。
 ひと息つく間もなく、キョウゴは再び体内に侵入した。そして、また腰を引く。
 指先からオスにかわっただけで、さっきの繰り返しだ。すでに果てにイッて敏感になった智奈がそう耐えられるはずもない。脱力した躰が腰もとを中心にまた痙攣し始めた。濡れた音も粘り気を伴ってひどくなっていく。
「きょ、ごっ、ああっ……おかし、く……んぁっ……なり、そ――っ、あああっ」
 イヤイヤをする子供のように、智奈は緩慢に首を横に振った。躰は重たくベッドに沈んでいる気がしているのに、さらに身を投げだしたくなるような快感に塗れている。
 キョウゴは前のめりになりながら、ベッドに無造作に放っていた智奈の手を取った。
「智奈が本気で感じてるのは、わかってる。ベタベタのシロップが、ミルク色に変わった。わかる?」
 ほんの真上でキョウゴは何を訊ねたのか、それまでのゆっくりだった動きをわずかに早くした。すると、自ずと飛びだす嬌声の隙間に、ぐちゃっ、ぐちゃっ――と淫音がくっきりと響く。
「泡立ってる」
 キョウゴは濫りがわしく智奈をからかう。のぼせているのは智奈だけで、キョウゴは至って冷静に楽しんで余裕がありそうだけれど、その呼吸は乱れていて、平常心とはきっと云いきれない。
「……や……あふっ」
 わずかに早くなった律動はまた一定して、智奈を追いつめる。それが、じわじわと深くなっているのに気づかなかった。体内の快楽点に引っかかるような感触がした。それが快感に変わるのに時間はかからず、智奈はびくっと腰を跳ねた。
 ああっ。
 グシュッ、と嬌声に重ねるように淫蜜の弾ける音がした。キョウゴはそこで繰り返し、抉るようにうごめいた。その度に淫蜜を吐きだして、躰の中心が濡れそぼつ。
 痙攣よりもひどく、ガクガクと揺さぶられるように腰がひとりでに上下して、また限界が来た。
「あ、あぅっ、きょーごっ、も――ぅっ、あ、あああ――――」
 最後まで訴えられないまま、智奈は腰を浮かした。それでもキョウゴはリズムを変えることなく、智奈を着実に果てへと送りだした。
 がくんっ――と、一度腰を突きあげると、そのまま智奈の中で快楽が弾けた。
 くっ……ふっ……。
 智奈が息を詰めたなか、濡れた音の合間に熱く呻くのはキョウゴでしかない。
 ぼんやりと智奈がそう思う傍らで、キョウゴは律動を続けている。ふっと腰に異様な感覚がしたかと思うと、浮いていたお尻がすとんと落ちた。
 グチャ、グチャ――と、キョウゴが腰を前後するたびに粘着音がして、智奈は強制的に快感を与えられる。快楽の中に意識が吸いこまれそうな感覚に陥った。嬌声は声にならず、かすれた喘ぎ声にしかならない。逃れようにも、躰が弛緩してしまって動かない。
「っ……智奈……そのままで、いろ」
 キョウゴが振り絞るように間近で呼びかけた。
 何をそのままでいるべきなのか考えることもままならず、そのうえ智奈にはもう動きようがなく、うなずいたつもりでも本当にそうできたのかわからない。
 キョウゴは智奈のくちびるの端にすっと口づけると――
 愛してる。
 声にならない、熱い吐息のもと囁かれた言葉は幻聴か、耳に触れた刹那。
 んんん――――っ。
 キョウゴがぐっと奥を穿ってきた。抉じ開けられる感覚と少しの痛みを覚えながら、その隘路にキョウゴの大きさをくっきりと刻みつけられた。
 キョウゴのほうが痛みを感じているのではないか。手の甲にキョウゴの指先が喰いこむほど智奈の手が強く握りしめられている。その痛みが体内の痛みを紛らせてくれたのかもしれない。
「ふっ……智奈の中は、きつい、な……」
「っはぁ……っ、はじめ、て……だか、ら……っ……」
「ああ……大丈夫、か……」
 キョウゴの声も途切れ途切れで、それまで智奈だけが一方的に感じているわけではなかったと裏付ける。
「ぅん。……痛み、あった、けど……思ってた、より……ずっと、ラク……。きょーご、の……おか……げ……?」
「智奈が、感じすぎてるおかげだ」
 智奈は首を横に振り――それが伝わるほどに動かせたのかわからないけれど、キョウゴがにやりとしたところをみると、少なくとも、“恥ずかしいこと云わないで”と発せられなかった智奈の意思は読みとっている。
「ゆっくりやるから……そう持たない気がするけど、たぶん智奈はまたイケる。というより、イカせる」
 自信たっぷりに放ったキョウゴは、おもむろに腰を引いた。キョウゴの慾に纏わりつく襞が摩撫されて智奈は身悶えた。智奈が嬌声を吐くかわりにキョウゴが唸り声を立てる。そうしてまた奥へと貫いてきた。今度は明確な痛みはない。少しの違和感ときつさだけがあって、オスはまた引き返していく。抜けだしそうなくらいキョウゴは腰を引いた。それから存在感を示すようにじわじわと突いてくる。それが何度めか、奥に到達したとき、智奈はそれまで感じていた快楽とはまた違う種類の快感を知った。
 んふうぅ――っ。
 智奈の体内がきゅっと締めつけるようにうごめいた。
 くっ……。
 キョウゴが苦しそうに呻く。それでも律動を絶えさせることはなく、腰を引いてまた突き進んだ。
 ふぁっ――。
 全身が粟立つような快感が襲ってくる。智奈の体内で無自覚に収縮が起き、それに応じてキョウゴがまた呻いた。その繰り返しも長く続くことはなく――。
「ふ、ぁっ……も……だ、め……とけ、ちゃ……ぅ……」
「っく……ああ……一緒に融けてやる、から……智奈、イッて」
 それは命令でもあるようで――そもそも智奈にはもう快感に太刀打ちできる状態ではなくなっていて、感覚を受けとめるだけだ。キョウゴは奥で短い律動を始め、覚えたばかりの新たな快感が急速に大きくなっていった。体内で起きるキス音が激しくなって、智奈の意識がすーっと遠のくような気がした。その実、意識が導かれたのは快楽の地だ。
 どくんっ。
 智奈の体内で、そんな音が立ちそうな収縮が起きた。
 くぅ――っ。
 苦しげにこもった咆哮が耳に届いた直後、智奈の中が爛れそうな熱に塗れた。何度も放たれている。それがくすぐられているようにも感じて、智奈の快感を長引かせた。キョウゴの荒っぽい呼吸が落ち着いてきても、意思では動かせない智奈の躰はぴくぴくと反応して、その規則的な痙攣は止まらない。
「智奈、やっぱりおれたちの相性は無敵だ。そう思うだろう?」
 智奈は薄らと目を開けた。
 ほんの真上にキョウゴの顔があって、いかにも満ち足りている。
「躰、の……相性……?」
 智奈が問い返すと、キョウゴは可笑しそうにする。
「それももちろんだ。智奈の全部がおれを満たしてくれる。ここで一緒に暮らそう。いい?」
「ぅん」
 考えるまでもなく智奈は答えていた。
 キョウゴは手を離して智奈の頭をくるみ、髪を撫でるようにしながら片方の手は首の下に、もう片方は背中の下に潜りこませ、智奈を抱きしめた。
「もう一度」
 と、智奈をがんじがらめにしたキョウゴは腰をうねらせた。一体化したように体内でなじんでいたキョウゴのオスが再び目覚めて、ふたりの明確な違いを知らしめる。おさまりかけていた淫楽が簡単にいっぱいいっぱいになった。キョウゴの動きはゆったりとしていて、揺りかごの中にいるような、もっといえば水中を漂っているような気分にさせられて、智奈の躰の奥で小さな快感が次々に弾ける。そうして、智奈の意識はふわりと躰から離れた。
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