上 下
50 / 100

43.抱かれてみる? partⅡ

しおりを挟む
 ちょっとした深刻な顔つきやためらい、そんなキョウゴの揺れは智奈の気持ちを慮ってのことだったらしい。そのことに驚きながら、智奈はうなずいた。
「いてほしいし、ついてく」
 二つ返事をすると、キョウゴは喜ぶよりも呆れた雰囲気でで首を横に振った。
「ちゃんと考えてるのか」
「何を考えなくちゃいけないの?」
「智奈は云っただろう、危険そうだって。おれといるってことは、智奈にもそれが及ぶってことだ」
「……キョウゴは危なくないって云わなかった?」
 智奈が云い返すと、キョウゴはお手上げだといった様子で吹きだした。
「智奈は都合よく解釈してる。おれは、信用次第で危険度は下がるって云っただけだ」
「キョウゴはわたしを守りたいってことも云ったよね。そうしてくれるって思えるから」
「おれは一人二役して騙してたんだぞ」
「逆も云える。キョウゴには二面性があって、そのどっちも見せてくれたの。それとも、津田さんが云ってたけど、人でなしとか、まだ別の顔も持ってる?」
 キョウゴがため息をつくのを見て、智奈はふと違った解釈をしていたのかと自分に疑問を持った。そんなちょっとした綻びで不安がいっぱいに膨らむのはあっという間だ。それだけ、キョウゴの存在は大きくて、いなくなったらと思うだけでつらくなる。
「キョウゴはわたしについてきてほしくないの? もしかして、全部話したらわたしが怖がって引くって……追い払うために教えてくれたの? キョウゴが黙って消えても“堂貫オーナー”は消えられない。わたしが堂貫オーナーを好きだってことはバレバレで、付き纏うようになったら困るから?」
 智奈の不安は声に表れている。キョウゴの驚いた顔はどう捉えていいのだろう。
 息を呑んで返事を待っていると、やがてキョウゴはゆっくりと首を横に振った。否定だと思いたい。そんな気持ちで一心に見つめると、可笑しそうな笑みが返ってきた。
「一人二役でそれぞれに他人事のような云い方はしてきたけど、嘘は吐いてない。おれが智奈を追い払うはずないだろう。キョウゴ、ではなく堂貫が好きって云われると、複雑な気もするけど」
「……どっちが本当?」
 智奈はキョウゴの答えにほっとして、力の抜けた声で問う。
「どっちも本当だ。人でなしと呼ばれる一面もあるかもしれない。さっき話した裏の仕事を思えば想像がつくだろう? ただし、智奈がそんなおれを見ることはない」
 キョウゴは断言した。きっと、智奈に対して人でなしにはならないという約束、あるいは確信なのだ。
「キョウゴと会ってからまだ一カ月くらいだけど、一緒に住んでいるぶん、ずっと以前からそうしているように感じてる。キョウゴを知ってる。わたしがそう云うの、間違ってる?」
「いや、智奈に嘘は吐いてない。この一カ月、ありのままのおれを見せてきた」
 キョウゴは嘘を吐いていないと繰り返し、智奈は力を得た気になって顔が綻び、こっくりとうなずいた。
「わたし、お母さんも親戚もいるけど、いまは天涯孤独みたいなものだから、キョウゴが悪人でもだれにも咎められない。何も失うものないし、わたしがやりたいようにできる。わたしはキョウゴといたい」
 智奈がきっぱり宣言するとキョウゴはじっと智奈の瞳を捉え、そこから何を得たのか、唐突に立ちあがった。
 釣られて仰向くと、智奈の頬がくるまれて顎がさらに持ちあげられる。真上からキョウゴの顔が近づいて、口づけられた。
 智奈のくちびる全部がキョウゴのくちびるで覆われ、吸いついて、なお且つゆっくりと離れていく。智奈が好きな、気持ちのいいキスだ。もう一度、と思うのに、キョウゴは顔を離したままで、戻ってくる気配がなく、智奈はキスの瞬間に自ずと閉じていた瞼を上げた。キョウゴの顔が視界いっぱいになって、うっとりする。
「智奈、その意思の裏付けに、おれに本気で抱かれてみる? ……いや、その気があるっておれが受けとめても、智奈に否定する余地はない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹秘書は生贄の恋人を溺愛する

砂原雑音
恋愛
旧題:正しい媚薬の使用法 ……先輩。 なんて人に、なんてものを盛ってくれたんですか……! グラスに盛られた「天使の媚薬」 それを綺麗に飲み干したのは、わが社で「悪魔」と呼ばれる超エリートの社長秘書。 果たして悪魔に媚薬は効果があるのか。 確かめる前に逃げ出そうとしたら、がっつり捕まり。気づいたら、悪魔の微笑が私を見下ろしていたのでした。 ※多少無理やり表現あります※多少……?

【R18】嫌いな同期をおっぱい堕ちさせますっ!

なとみ
恋愛
山田夏生は同期の瀬崎恭悟が嫌いだ。逆恨みだと分かっている。でも、会社でもプライベートでも要領の良い所が気に入らない!ある日の同期会でベロベロに酔った夏生は、実は小さくはない自分の胸で瀬崎を堕としてやろうと目論む。隠れDカップのヒロインが、嫌いな同期をおっぱい堕ちさせる話。(全5話+番外小話) ・無欲様主催の、「秋のぱい祭り企画」参加作品です(こちらはムーンライトノベルズにも掲載しています。) ※全編背後注意

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎ ミックスド★バスの第4弾です。

やさしい幼馴染は豹変する。

春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。 そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。 なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。 けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー ▼全6話 ▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

突然ですが、偽装溺愛婚はじめました

紺乃 藍
恋愛
結婚式当日、花嫁である柏木七海(かしわぎななみ)をバージンロードの先で待ち受けていたのは『見知らぬ女性の挙式乱入』と『花婿の逃亡』という衝撃的な展開だった。 チャペルに一人置き去りにされみじめな思いで立ち尽くしていると、参列者の中から一人の男性が駆け寄ってきて、七海の手を取る。 「君が結婚すると聞いて諦めていた。でも破談になるなら、代わりに俺と結婚してほしい」 そう言って突然求婚してきたのは、七海が日々社長秘書として付き従っている上司・支倉将斗(はせくらまさと)だった。 最初は拒否する七海だったが、会社の外聞と父の体裁を盾に押し切られ、結局は期限付きの〝偽装溺愛婚〟に応じることに。 しかし長年ビジネスパートナーとして苦楽を共にしてきた二人は、アッチもコッチも偽装とは思えないほどに相性抜群で…!? ◇ R18表現のあるお話には「◆」マークがついています ◇ 設定はすべてフィクションです。実際の人物・企業・団体には一切関係ございません ◇ エブリスタ・ムーンライトノベルズにも掲載しています

処理中です...