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「じゃあ……いつか三人一緒に飲みに行ったりできない? べつにバカ騒ぎしなくてもいいし……たまには堂貫オーナーとお酒を飲んだりもするでしょ?」
 食いさがってみると、キョウゴは苦笑いじみて薄く笑った。
「今日はなんなんだ。堂貫のことをやけに気にしてるけど……おれよりも好きだとか?」
 キョウゴはストレートに訊ねてくる。けれど。単に堂貫が好きかと訊かれれば、智奈も単純に好きと云えたのに――嫌う理由などなく、恋する気持ちを除外すれば簡単に云える言葉だったのに、キョウゴは『おれよりも』と比較した答えを要求してきた。
 そこに思惑があるのか否か、キョウゴは巧妙に話を運んで智奈はやられてばかりだ。
「キョウゴも堂貫オーナーも、どっちも嫌いじゃない」
 反抗的に聞こえたのだろう、いや、そのとおりの気分で云ったのだけれど、キョウゴはおもしろがって笑う。智奈を追いつめるべく、追求してくるかと思いきや――
「おれは智奈が好きだ。だれにも渡したくない」
 キョウゴは至って真面目な口調で、真逆の方向から智奈を追いつめた。
 うれしくないと云ったら、それはまったく嘘だ。智奈だってキョウゴが好きだ。けれど、堂貫に会えば堂貫にときめいてしまう。好きだと思ってしまう。自分がこんなに気が多く浮気性だとは思いもしなかった。
 智奈が返事に窮していると、キョウゴはまた興じた様子に戻った。
「なんだ智奈、“わたしも”って云わないのか。せっかくバージン喪失の機会を与えてやったのに。このまえの不能の件といい、智奈はおれのプライドを潰す天才だ」
 キョウゴは恩着せがましく云ったかと思うと、わざとらしく嘆いて見せた。さっきの告白は冗談だったのか、そう考えたらがっかりする。
 キョウゴの智奈に対する気持ちについては、智奈自身が云った『嫌いじゃない』という程度なら確信はある。それ以上の気持ちは、もしキョウゴが本気で云ったとしても智奈のほうが本気で信じることはできない。それほどの気持ちをキョウゴに抱かせる自信は智奈の中に皆無だ。
「そういうつもりじゃなくて……わたしはキョウゴのこと、あまり知らないから……」
「知らないというのはおれの背景のことだろうけど、その辺りは知らなくても好きになるときは好きになる。世の中にはひと目惚れって言葉があるけど、そういうことだろう?」
 キョウゴの云うとおりだ。堂貫に対してはまさにそれだった。名刺を渡されながら、連絡してくれ、とそのたったひと言に心が動いた。
「……キョウゴはひと目惚れの経験あるの?」
「どうだろう。おれは……母親からでさえ本気で愛されてると思ったことがないから、そういう気持ちになることもよくわからなかった」
 曖昧に云ったあとのキョウゴの言葉は智奈を驚かせた。びっくり眼でキョウゴを見つめ、そうする智奈を見てキョウゴは何かごまかすようにため息まがいでかすかに笑った。。
「いま、ちょっと同情して、気持ちがおれに傾いた?」
 ふざけた質問だ。わざとちゃかしたのか、そこは判断がつかない。
「わたしもお母さんから愛されてるとは思ってない」
 智奈ははぐらかし、けれどキョウゴがそこを突いてくることはなく、そうだな、とただ同調した。
「けど、智奈はお父さんからは愛されてただろう? 母親がだらしなくても、智奈はしっかりしてるし、人にも迷惑をかけず、きちんと育ってる。それが証拠だ。ホスト通いは褒められないけど」
「ホスト業のキョウゴがそんなこと云っていいの?」
「好きでやってたわけじゃない。オーナーになったいまもそうだ」
 智奈は軽口を叩いたつもりが、キョウゴは乗ってこなかった。それどころか、形だけのかすかな笑みをくちびるに浮かべ、また驚くようなことを云う。
「……どういうことか訊いてもいい?」
「はっ、もう訊いてるだろう」
「そうだけど……キョウゴのこと、話してくれるなら、いろんなことを聞きたい」
「人のことを知りたがるって、覚悟あるんだろうな」
「たぶん、キョウゴとは縁を切りたくないって思うほどには覚悟ある。キョウゴがいないと、わたしは独りぼっちだから」
 覚悟という言葉に対して智奈の答えは簡単すぎたのか、キョウゴは吹くように笑った。それから軽くため息をついて口を開いた。
「おれも独りだっていう感覚でやってきたけど……おれは父親に認知もされていない、つまり、愛人の母が勝手におれを生んだ。ホストになったのもオーナーになったのも、優位に立って生きていくための手段だ」
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