悪い男は愛したがりで?甘すぎてクセになる

奏井れゆな

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24.気の多さと既視感

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 季節は夏でもなく暑くもないから、キョウゴはバスルームから出てくるときもきちんとパジャマがわりの服を着ている。ベッドの中では智奈が一方的に抱かれるだけで、キョウゴは服を着たままでいる。即ち、裸体など見たことがなかった。
 服越しで感じていたよりも、キョウゴはずっと頑丈な躰をしていた。血管の浮いた腕に程よく隆起した胸、そしてぼこぼこした腹部を見れば、明らかに鍛えている。隠すのはもったいない。最初の感想はそれだったけれど、何よりもぱっと目についてしまったキョウゴの躰の中心はもうまともに見られず、智奈は視線を宙にさまよわせた。
 キョウゴは含み笑う。
「なんなんだ、その反応は。さきが思いやられるな」
 その『さき』がなんのことを云っているのか明確ではない。ただ、いま裸を晒したことでキョウゴはなんらかのステップアップをする気かもしれない。無理やり一線を超えることはしないと宣言していたけれど。
 智奈はおそるおそるといった様子でキョウゴの顔に目を向け、疑うように見た。
「その……違うことするの?」
 用心深く訊ねると、苦笑いが返ってくる。
「おれに触られるのは慣れただろう? そろそろ違うことを知ってもいいし……って、段階を踏まないといけないセックスってなんだろうな。とにかく、究極の男と女のセックスは智奈の気持ち次第だ」
「……わたしの気持ち?」
「そう。おれを不能にするとか、がんじがらめになってもらわなくては割に合わない」
「がんじがらめって意味がわからない。不能……って、それはわたしのせいじゃないと思うけど。それに……」
「“それに”?」
 キョウゴは嫌らしくニヤついて、いかにも智奈が思っていることを勝手に想像して答えを出している。たぶん、間違ってはいないけれど、口にするにははばかられた。こっそり白状すれば、さっき見たものが不能でないことは、未経験の智奈でも判断がつく。
 口を結んだままの智奈を見て、キョウゴはため息をつくように笑い、それから手を伸ばせば届くほどのふたりの距離を詰めた。
 ヒールを履いていないと、智奈の背はキョウゴの肩くらいまでしかない。首をのけ反らせて見上げた。さっきはさらうようにソファから連れてきたのに、いつものようなせっかちさは鳴りを潜め、キョウゴは何かを待っている。
「早く抱きついておれを浄化してくれ」
 智奈は目を丸くした。
 キョウゴの『嫌悪感』という発言は大げさでもなんでもなく、おそらくはそのときと同じ状況にして、本気でリセットしたいと思っているようだ。そうなると、その女性がかわいそうな気もしてくる。反面、正直に自分の気持ちと向き合えば、智奈はうれしいとも感じる。
 その気持ちはなんだろう。さっき、キョウゴも気持ちのことを云っていたけれど。
 何年か前に、数時間前のシーンと似たような場面に遭遇したことがある。父と、知らない女性が親しげに腕を組んで歩いていた。両親は離婚していないのだから、父が女性と付き合っているとしたら不倫になるけれど、そんな嫌悪感は智奈にはなかった。あんな母を無理してでも支えていた父のことを悪く思えるはずがない。すっきり応援したいとまでは思わなかったけれど認められた。
 けれど、キョウゴに対しては、女性とただの躰の関係であっても嫌だと感じてしまう。さみしさを紛らせたくてし崩しに同居しているけれど、家族だった父とは違う。
 それじゃあキョウゴは何?
 堂貫が好きなのに、キョウゴを独占したがる。手に入らないものと、入るかもしれないもの。それを天秤にかけているのかもしれない。
 それとも、気が多いという、それは自分でも知らなかった自分の一面?
「智奈」
 キョウゴが焦れったそうに智奈に呼びかけた。
 いまのキョウゴの姿を見て抱きつきたくない人がいたら、その人の美的、且つ性的感覚はかなり特殊だ。そう思うほど、急かされなくても触れてみたい欲求は大きい。智奈は手を上げるとキョウゴの背中にまわして抱きついた。
 硬く弾力のある胸に頬をぺたりとくっつける。
 気持ちいい。手のひらで感じる背中も、直接、触れ合う体温も。
 智奈がゆったりと息を吐くと、キョウゴの躰がリラックスしたように緩んだ。そして、智奈の背中に腕がまわりこみ、躰がふわりとくるまれた。頭の天辺に口づけられる。
 すると、また既視感を覚える。それがいつのことか、今度は思いだすまでもなくはっきりわかった。
 ここまで似ているもの?
 その疑問は、突然、躰を反転させられて、整理がつけられなかった。
 今度は背後から抱きしめられた。首を傾けたキョウゴが智奈の耳をむ。
「キョウゴっ」
 智奈は首をすくめた。背中からぞくっとした感覚が派生し、躰にぷるっとしたふるえが走った。
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