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15.おめざのキス

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 そのときの智奈は、眠りについたなど穏やかなものではなく、実は気を失ったんじゃないかと思う。
 目覚めかけ、温かい繭にくるまれている、と感じながら智奈はわずかに身じろぎをした。気持ちいい、と思ったのはつかの間、それが繭でもふとんでもなく、人の体温だと気づいた。
 右側を下にして智奈は横向きに眠り、左の脇腹に程よい重みがあり、額には、トクントクン、と小さな振動が触れる。左手でつかんでいるのは、ふとんとは違うやわらかい布で、少し引いてみると引っ張られる感覚はなく、つまり自分の服ではないということだ。
 だれ? どういうこと?
 躰がこわばり、急いで考えめぐったけれど、そもそもどこから記憶をたどり始めればいいのかもわからない。それほどパニックになって、智奈はぱっと身を起こした――つもりが、それよりも早く、首の下にあった腕が左肩までまわりこみ、左の脇腹にのった腕が腰に巻きついて起きあがれなかった。
 無意識に逃れようともがいた刹那。
「智奈、暴れるな。ベッドから落ちる」
 頭上でおかしそうな声がたしなめた。
 ハッとして首をのけ反らせ、智奈は頭上に目を向けた。伏せがちの目と目が合う。
「……キョウゴさん……?」
「ほかにだれがいるというんだ?」
 おめざのキスだ、と、キョウゴは寝そべったまま顔を近づけて智奈に口づけた。くちびるがぺたりとくっついたあと、ゆっくり離れていく。
「……あの……」
 キスが記憶のスイッチだったかのように、意味もなくつぶやきながら眠るまえのことを思いだして、すぐさま智奈は目を伏せた。
 不意打ちでキョウゴに襲われて混乱したまま快楽に侵され、ただ快感を享受していたけれど、それがいまになってひどく恥ずかしいと思えてきた。まして、キョウゴは服を着ていて、智奈は裸だということにも気づいてしまう。
 回想など無理だ。
 羞恥心でいっぱいになって、けれどなかったことにもできなくて事実からはどうにも避けられない。
「……いま何時ですか」
 訊ねると、つむじ辺りが風にそよいだ。キョウゴの吐息に違いなく。
「朝の六時をすぎたところだ。日曜日だし、時間を気にしなくてもいいだろう。ばつが悪くてごまかしてるんだろうけど」
 と、キョウゴは智奈の心境をすっかりお見通しだった。反対に――
「慣れて、楽しんだほうがいい」
 キョウゴは悪に引きずりこむような、やんわりといざなう声で云い、いまのいまその言葉が意図することまでは考えつかなかった。無論、そんな智奈がキョウゴの意思を予測できるはずもなく、腰を抱いていた手が出し抜けにお尻をくるむと、小さく悲鳴をあげた。
 剥きだしのお尻の丸みに沿って撫でると、キョウゴの手は後ろから腿の間を抉じ開けるようにしながら躰の中心を襲ってきた。
 あっ。
 指先で触れられると、そこにはぬるっとした感触があった。神経が自ずとそこに向かう。すると、しとどに濡れているのが感じられる。昨夜の名残だ。果てるたびに漏らしているような気がしていた。
 くちゅっ――と音がして、そうした指先が滑って秘芽に到達した。とたん。
 あああっ。
 なんの前戯もなく、いきなり触られただけで快感が急激に目覚めた。眠りについてリセットされた躰は、きっと何もかもを敏感に感じるのかもしれない。ひどい刺激から逃れようと智奈は腰をそらした。すると、キョウゴが含み笑う。
「おれを誘惑する気?」
 なんおことだろう、キョウゴはまったく見当外れのことを云う。
「ち、が……ああっ」
 否定しかけると、秘芽を捏ねられて、横向きのまま腰がびくびくとしてキョウゴの下腹部に繰り返しぶつかる。
「やっぱり誘惑だな」
「誘惑……じゃ……んんっ……キョウゴさん……あっ……の、せ……いっ……ん、あうっ」
「おれは触れてるだけで、勝手に感じてるのは智奈だろう。いや、感じすぎだな、手がベチャベチャだ」
 キョウゴはすべて智奈のせいにしたうえ、興じた声で智奈の羞恥心を煽った。
「やっ」
「素直に楽しめばいいのに。まあ、口先で云うことと躰の云ってることが違っていても、それはそれでよけいに可愛がり甲斐がある。当面、おれの欲求はそっちのけで楽しめそうだ。無理やりさきに進むことはない。約束どおり」
 それが誠実なのかと云えば、きっと違う。会ったばかりのキョウゴに一緒に住むことを許してしまったのは、だれの目にも智奈の愚行に映るだろう。けれど、最後の一線を守られることが、その愚かさに目をつむるために都合よくもある。
 ただし、楽しんでいるのはキョウゴだけで、智奈にはそんな余裕がない。
「んふっ……ま、……あっ……待って……っ、んっ!」
 自然とそうなったのか、指先が秘芽をなぶると同時に、別の指先が――親指の腹がお尻の間に沿ってへんな場所に当たっている。
「いいから」
 淫靡な囁き声が耳にかかり、背中にぞくぞくっとした感覚が走った刹那、二つの指先が触れた場所で揉みこむようにうごめき、智奈はあっという間に果てに昇らされた。淫らな嬌声がこぼれ、その合間に蜜をグチャグチャと掻きまわすような音が立つ。
「無理やり襲わないとか、云わなきゃよかったな」
 びくびくする智奈が飛びだしてしまわないよう、キョウゴは細い躰に腕を絡めると、笑いつつも残念そうにため息をついた。
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