15 / 100
15.おめざのキス
しおりを挟む
そのときの智奈は、眠りについたなど穏やかなものではなく、実は気を失ったんじゃないかと思う。
目覚めかけ、温かい繭にくるまれている、と感じながら智奈はわずかに身じろぎをした。気持ちいい、と思ったのはつかの間、それが繭でもふとんでもなく、人の体温だと気づいた。
右側を下にして智奈は横向きに眠り、左の脇腹に程よい重みがあり、額には、トクントクン、と小さな振動が触れる。左手でつかんでいるのは、ふとんとは違うやわらかい布で、少し引いてみると引っ張られる感覚はなく、つまり自分の服ではないということだ。
だれ? どういうこと?
躰がこわばり、急いで考えめぐったけれど、そもそもどこから記憶をたどり始めればいいのかもわからない。それほどパニックになって、智奈はぱっと身を起こした――つもりが、それよりも早く、首の下にあった腕が左肩までまわりこみ、左の脇腹にのった腕が腰に巻きついて起きあがれなかった。
無意識に逃れようともがいた刹那。
「智奈、暴れるな。ベッドから落ちる」
頭上でおかしそうな声がたしなめた。
ハッとして首をのけ反らせ、智奈は頭上に目を向けた。伏せがちの目と目が合う。
「……キョウゴさん……?」
「ほかにだれがいるというんだ?」
おめざのキスだ、と、キョウゴは寝そべったまま顔を近づけて智奈に口づけた。くちびるがぺたりとくっついたあと、ゆっくり離れていく。
「……あの……」
キスが記憶のスイッチだったかのように、意味もなくつぶやきながら眠るまえのことを思いだして、すぐさま智奈は目を伏せた。
不意打ちでキョウゴに襲われて混乱したまま快楽に侵され、ただ快感を享受していたけれど、それがいまになってひどく恥ずかしいと思えてきた。まして、キョウゴは服を着ていて、智奈は裸だということにも気づいてしまう。
回想など無理だ。
羞恥心でいっぱいになって、けれどなかったことにもできなくて事実からはどうにも避けられない。
「……いま何時ですか」
訊ねると、つむじ辺りが風にそよいだ。キョウゴの吐息に違いなく。
「朝の六時をすぎたところだ。日曜日だし、時間を気にしなくてもいいだろう。ばつが悪くてごまかしてるんだろうけど」
と、キョウゴは智奈の心境をすっかりお見通しだった。反対に――
「慣れて、楽しんだほうがいい」
キョウゴは悪に引きずりこむような、やんわりといざなう声で云い、いまのいまその言葉が意図することまでは考えつかなかった。無論、そんな智奈がキョウゴの意思を予測できるはずもなく、腰を抱いていた手が出し抜けにお尻をくるむと、小さく悲鳴をあげた。
剥きだしのお尻の丸みに沿って撫でると、キョウゴの手は後ろから腿の間を抉じ開けるようにしながら躰の中心を襲ってきた。
あっ。
指先で触れられると、そこにはぬるっとした感触があった。神経が自ずとそこに向かう。すると、しとどに濡れているのが感じられる。昨夜の名残だ。果てるたびに漏らしているような気がしていた。
くちゅっ――と音がして、そうした指先が滑って秘芽に到達した。とたん。
あああっ。
なんの前戯もなく、いきなり触られただけで快感が急激に目覚めた。眠りについてリセットされた躰は、きっと何もかもを敏感に感じるのかもしれない。ひどい刺激から逃れようと智奈は腰をそらした。すると、キョウゴが含み笑う。
「おれを誘惑する気?」
なんおことだろう、キョウゴはまったく見当外れのことを云う。
「ち、が……ああっ」
否定しかけると、秘芽を捏ねられて、横向きのまま腰がびくびくとしてキョウゴの下腹部に繰り返しぶつかる。
「やっぱり誘惑だな」
「誘惑……じゃ……んんっ……キョウゴさん……あっ……の、せ……いっ……ん、あうっ」
「おれは触れてるだけで、勝手に感じてるのは智奈だろう。いや、感じすぎだな、手がベチャベチャだ」
キョウゴはすべて智奈のせいにしたうえ、興じた声で智奈の羞恥心を煽った。
「やっ」
「素直に楽しめばいいのに。まあ、口先で云うことと躰の云ってることが違っていても、それはそれでよけいに可愛がり甲斐がある。当面、おれの欲求はそっちのけで楽しめそうだ。無理やりさきに進むことはない。約束どおり」
それが誠実なのかと云えば、きっと違う。会ったばかりのキョウゴに一緒に住むことを許してしまったのは、だれの目にも智奈の愚行に映るだろう。けれど、最後の一線を守られることが、その愚かさに目をつむるために都合よくもある。
ただし、楽しんでいるのはキョウゴだけで、智奈にはそんな余裕がない。
「んふっ……ま、……あっ……待って……っ、んっ!」
自然とそうなったのか、指先が秘芽をなぶると同時に、別の指先が――親指の腹がお尻の間に沿ってへんな場所に当たっている。
「いいから」
淫靡な囁き声が耳にかかり、背中にぞくぞくっとした感覚が走った刹那、二つの指先が触れた場所で揉みこむようにうごめき、智奈はあっという間に果てに昇らされた。淫らな嬌声がこぼれ、その合間に蜜をグチャグチャと掻きまわすような音が立つ。
「無理やり襲わないとか、云わなきゃよかったな」
びくびくする智奈が飛びだしてしまわないよう、キョウゴは細い躰に腕を絡めると、笑いつつも残念そうにため息をついた。
目覚めかけ、温かい繭にくるまれている、と感じながら智奈はわずかに身じろぎをした。気持ちいい、と思ったのはつかの間、それが繭でもふとんでもなく、人の体温だと気づいた。
右側を下にして智奈は横向きに眠り、左の脇腹に程よい重みがあり、額には、トクントクン、と小さな振動が触れる。左手でつかんでいるのは、ふとんとは違うやわらかい布で、少し引いてみると引っ張られる感覚はなく、つまり自分の服ではないということだ。
だれ? どういうこと?
躰がこわばり、急いで考えめぐったけれど、そもそもどこから記憶をたどり始めればいいのかもわからない。それほどパニックになって、智奈はぱっと身を起こした――つもりが、それよりも早く、首の下にあった腕が左肩までまわりこみ、左の脇腹にのった腕が腰に巻きついて起きあがれなかった。
無意識に逃れようともがいた刹那。
「智奈、暴れるな。ベッドから落ちる」
頭上でおかしそうな声がたしなめた。
ハッとして首をのけ反らせ、智奈は頭上に目を向けた。伏せがちの目と目が合う。
「……キョウゴさん……?」
「ほかにだれがいるというんだ?」
おめざのキスだ、と、キョウゴは寝そべったまま顔を近づけて智奈に口づけた。くちびるがぺたりとくっついたあと、ゆっくり離れていく。
「……あの……」
キスが記憶のスイッチだったかのように、意味もなくつぶやきながら眠るまえのことを思いだして、すぐさま智奈は目を伏せた。
不意打ちでキョウゴに襲われて混乱したまま快楽に侵され、ただ快感を享受していたけれど、それがいまになってひどく恥ずかしいと思えてきた。まして、キョウゴは服を着ていて、智奈は裸だということにも気づいてしまう。
回想など無理だ。
羞恥心でいっぱいになって、けれどなかったことにもできなくて事実からはどうにも避けられない。
「……いま何時ですか」
訊ねると、つむじ辺りが風にそよいだ。キョウゴの吐息に違いなく。
「朝の六時をすぎたところだ。日曜日だし、時間を気にしなくてもいいだろう。ばつが悪くてごまかしてるんだろうけど」
と、キョウゴは智奈の心境をすっかりお見通しだった。反対に――
「慣れて、楽しんだほうがいい」
キョウゴは悪に引きずりこむような、やんわりといざなう声で云い、いまのいまその言葉が意図することまでは考えつかなかった。無論、そんな智奈がキョウゴの意思を予測できるはずもなく、腰を抱いていた手が出し抜けにお尻をくるむと、小さく悲鳴をあげた。
剥きだしのお尻の丸みに沿って撫でると、キョウゴの手は後ろから腿の間を抉じ開けるようにしながら躰の中心を襲ってきた。
あっ。
指先で触れられると、そこにはぬるっとした感触があった。神経が自ずとそこに向かう。すると、しとどに濡れているのが感じられる。昨夜の名残だ。果てるたびに漏らしているような気がしていた。
くちゅっ――と音がして、そうした指先が滑って秘芽に到達した。とたん。
あああっ。
なんの前戯もなく、いきなり触られただけで快感が急激に目覚めた。眠りについてリセットされた躰は、きっと何もかもを敏感に感じるのかもしれない。ひどい刺激から逃れようと智奈は腰をそらした。すると、キョウゴが含み笑う。
「おれを誘惑する気?」
なんおことだろう、キョウゴはまったく見当外れのことを云う。
「ち、が……ああっ」
否定しかけると、秘芽を捏ねられて、横向きのまま腰がびくびくとしてキョウゴの下腹部に繰り返しぶつかる。
「やっぱり誘惑だな」
「誘惑……じゃ……んんっ……キョウゴさん……あっ……の、せ……いっ……ん、あうっ」
「おれは触れてるだけで、勝手に感じてるのは智奈だろう。いや、感じすぎだな、手がベチャベチャだ」
キョウゴはすべて智奈のせいにしたうえ、興じた声で智奈の羞恥心を煽った。
「やっ」
「素直に楽しめばいいのに。まあ、口先で云うことと躰の云ってることが違っていても、それはそれでよけいに可愛がり甲斐がある。当面、おれの欲求はそっちのけで楽しめそうだ。無理やりさきに進むことはない。約束どおり」
それが誠実なのかと云えば、きっと違う。会ったばかりのキョウゴに一緒に住むことを許してしまったのは、だれの目にも智奈の愚行に映るだろう。けれど、最後の一線を守られることが、その愚かさに目をつむるために都合よくもある。
ただし、楽しんでいるのはキョウゴだけで、智奈にはそんな余裕がない。
「んふっ……ま、……あっ……待って……っ、んっ!」
自然とそうなったのか、指先が秘芽をなぶると同時に、別の指先が――親指の腹がお尻の間に沿ってへんな場所に当たっている。
「いいから」
淫靡な囁き声が耳にかかり、背中にぞくぞくっとした感覚が走った刹那、二つの指先が触れた場所で揉みこむようにうごめき、智奈はあっという間に果てに昇らされた。淫らな嬌声がこぼれ、その合間に蜜をグチャグチャと掻きまわすような音が立つ。
「無理やり襲わないとか、云わなきゃよかったな」
びくびくする智奈が飛びだしてしまわないよう、キョウゴは細い躰に腕を絡めると、笑いつつも残念そうにため息をついた。
0
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説
冷徹秘書は生贄の恋人を溺愛する
砂原雑音
恋愛
旧題:正しい媚薬の使用法
……先輩。
なんて人に、なんてものを盛ってくれたんですか……!
グラスに盛られた「天使の媚薬」
それを綺麗に飲み干したのは、わが社で「悪魔」と呼ばれる超エリートの社長秘書。
果たして悪魔に媚薬は効果があるのか。
確かめる前に逃げ出そうとしたら、がっつり捕まり。気づいたら、悪魔の微笑が私を見下ろしていたのでした。
※多少無理やり表現あります※多少……?
【R18】嫌いな同期をおっぱい堕ちさせますっ!
なとみ
恋愛
山田夏生は同期の瀬崎恭悟が嫌いだ。逆恨みだと分かっている。でも、会社でもプライベートでも要領の良い所が気に入らない!ある日の同期会でベロベロに酔った夏生は、実は小さくはない自分の胸で瀬崎を堕としてやろうと目論む。隠れDカップのヒロインが、嫌いな同期をおっぱい堕ちさせる話。(全5話+番外小話)
・無欲様主催の、「秋のぱい祭り企画」参加作品です(こちらはムーンライトノベルズにも掲載しています。)
※全編背後注意
ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎
ミックスド★バスの第4弾です。
やさしい幼馴染は豹変する。
春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。
そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。
なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。
けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー
▼全6話
▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
突然ですが、偽装溺愛婚はじめました
紺乃 藍
恋愛
結婚式当日、花嫁である柏木七海(かしわぎななみ)をバージンロードの先で待ち受けていたのは『見知らぬ女性の挙式乱入』と『花婿の逃亡』という衝撃的な展開だった。
チャペルに一人置き去りにされみじめな思いで立ち尽くしていると、参列者の中から一人の男性が駆け寄ってきて、七海の手を取る。
「君が結婚すると聞いて諦めていた。でも破談になるなら、代わりに俺と結婚してほしい」
そう言って突然求婚してきたのは、七海が日々社長秘書として付き従っている上司・支倉将斗(はせくらまさと)だった。
最初は拒否する七海だったが、会社の外聞と父の体裁を盾に押し切られ、結局は期限付きの〝偽装溺愛婚〟に応じることに。
しかし長年ビジネスパートナーとして苦楽を共にしてきた二人は、アッチもコッチも偽装とは思えないほどに相性抜群で…!?
◇ R18表現のあるお話には「◆」マークがついています
◇ 設定はすべてフィクションです。実際の人物・企業・団体には一切関係ございません
◇ エブリスタ・ムーンライトノベルズにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる