13 / 100
13.キスは味覚を刺激する
しおりを挟む
ふっ、とキョウゴは息を漏らした。ただの吐息か笑みかはわからないけれど、そうするまでに、どうしたんだろうと智奈が思ってしまうほどの少しの間が空いた気がした。
「まえに会ったことがあったとして、すぐに思いだせないほど印象に残らないってかなりの衝撃だ」
キョウゴの発言は自惚れだ。けれど、否定できる人もまたいない。智奈とて、今朝、ホストと聞かされたとき、ロマンチックナイトで働いているのなら憶えていないはずがないと思った。それは普段の生活のなかでも当てはまることだ。何かしらの電話を受けたことがあって声を知っていただけという可能性もあるけれど、去年まで智奈はホストとの縁がなかったし、会社の人材業は夜の街の仕事は取り扱っていない。声を知っているとしたら会ったからであって、すなわち憶えているはずだ。
「声を知っているような気がしただけです」
「声? まったく同じということはないだろうけど、似た声はいくらだってあるからな。それより、キスに夢中になってたと思ってたのに、この状況でどうでもいい話をするって、おれに魅力がないってことか?」
「ううん、ちょっと気になっただけ。魅力がないのはわたしのほうだし……」
「キスは気に入ったってわけだ」
智奈が『ううん』と否定したのは『どうでもいい』という言葉に対してだったはずが、キョウゴはわざとだろうけれど、やはり都合のいいように捉える。
それなら、とキョウゴは続けた。
「その魅力がないっていうのが智奈のコンプレックスなら、すぐに克服できる」
キョウゴはそんなことを断言すると再びくちびるを合わせた。吸着して、すぐにくちびるは浮いていくけれど――
「口を開けて」
かすかに接点を残したまま、キョウゴが囁いた。くちびるにかかる吐息が熱い。思わず従ったのは、智奈の中に拒絶したい気持ちが皆無だったからだ。力を抜くと口がかすかに開いて、キョウゴが舌でくちびるを割る。またさっきと同じように、ゆったりと智奈の口内でうごめき始めた。
舌は頬の裏側を這い、歯並の裏側を滑っていく。ただ舌で撫でられているだけなのに、くすぐったいような感覚は智奈に陶酔感をもたらした。
キョウゴは少し顔を斜め向ける。キスの角度が変わって智奈の舌が絡めとられた。智奈の領域で起きていることなのに、主導権は奪われている。
キョウゴの意思のまま舌が踊らされ、感じるはずのない味覚が刺激されて、甘ったるい蜜が口の中に生成されていく。智奈は寝転んでいるのに、それでも酔ってしまったようにくらくらしてきた。
んふっ。
蜜が溢れそうになって無意識に飲みこむと、キョウゴの舌を巻きこんで、自分のものではない小さな唸り声が智奈の口内にこもった。そうしてキョウゴは、キスにとどまらず食べてしまいそうな勢いで口を押しつけてきた。
キョウゴの舌が大きくうごめいて、智奈の舌をすくい、吸いつく。
んんんっ。
舌の神経がざわついて、あまりの心地よさに痙攣する。智奈はまた力尽き、躰がベッドに沈むような感覚がした。そのとき。
ん、くぅっ……。
力尽きたはずが、魚が跳ねるように智奈の背中が反って胸が跳ねあがる。
キスにのぼせている間に、キョウゴは智奈のパジャマの上着をはだけ、インナーをたくし上げて小高いふくらみをあらわにしていた。そのトップがそれぞれ指先で抓まれている。そうしたまま小さく揺り動かされて、智奈の胸が連続してぴくぴくと小刻みに跳ねた。はじめて知るこの感覚が快楽というものなのか、鋭すぎて落ち着く間もない。
キスと相まって呼吸がうまく整えられず、胸先の快感が躰全体に広がって寒くもないのに身ぶるいをし始めた。キョウゴは舌と指先で器用に智奈を快楽に侵し、追いつめていった。逃れられないまま、ふと気が遠くなったような感じがしたあと、智奈の躰はぶるっと波打った。
キョウゴはゆっくりと顔を上げて、くちびるを放した。
「智奈」
荒っぽく息をつきながらキョウゴが呼びかけ、智奈はぼんやりとしたまま聞き遂げて瞼を上げる。乱れた呼吸は智奈のものか。そんな認識さえ難しい。定期的に躰がびくっとして、止めようとしても止められない。
「ん……っ」
「はじめてだからか? 軽くイッてたみたいだ。智奈は敏感すぎるかもな」
その声音を聞くかぎり、文句ではなく喜んでいそうだけれど。
「……ヘン、です……か……」
智奈は不安になって、息切れしながら訊ねてみると、キョウゴのくちびるがきれいな弧を描いた。
「まさか。攻め甲斐がある。取りようによっては、智奈には褒美にも罰にもなりそうだけどな」
どういう意味だろう。キョウゴはやはり楽しそうに云う。
「罰って……」
「まずは、セックスの快楽をとことん知ってみようか」
キョウゴは、智奈の意思に関係なく強制的に導くような云い方をした。無論、智奈の返事など必要なく、キョウゴは智奈の口角に口づけたかと思うと、顔を下げていきながら口を開く。すると。
あ、ああっ。
硬く突きだした胸のトップがいきなり熱く濡れた。
「まえに会ったことがあったとして、すぐに思いだせないほど印象に残らないってかなりの衝撃だ」
キョウゴの発言は自惚れだ。けれど、否定できる人もまたいない。智奈とて、今朝、ホストと聞かされたとき、ロマンチックナイトで働いているのなら憶えていないはずがないと思った。それは普段の生活のなかでも当てはまることだ。何かしらの電話を受けたことがあって声を知っていただけという可能性もあるけれど、去年まで智奈はホストとの縁がなかったし、会社の人材業は夜の街の仕事は取り扱っていない。声を知っているとしたら会ったからであって、すなわち憶えているはずだ。
「声を知っているような気がしただけです」
「声? まったく同じということはないだろうけど、似た声はいくらだってあるからな。それより、キスに夢中になってたと思ってたのに、この状況でどうでもいい話をするって、おれに魅力がないってことか?」
「ううん、ちょっと気になっただけ。魅力がないのはわたしのほうだし……」
「キスは気に入ったってわけだ」
智奈が『ううん』と否定したのは『どうでもいい』という言葉に対してだったはずが、キョウゴはわざとだろうけれど、やはり都合のいいように捉える。
それなら、とキョウゴは続けた。
「その魅力がないっていうのが智奈のコンプレックスなら、すぐに克服できる」
キョウゴはそんなことを断言すると再びくちびるを合わせた。吸着して、すぐにくちびるは浮いていくけれど――
「口を開けて」
かすかに接点を残したまま、キョウゴが囁いた。くちびるにかかる吐息が熱い。思わず従ったのは、智奈の中に拒絶したい気持ちが皆無だったからだ。力を抜くと口がかすかに開いて、キョウゴが舌でくちびるを割る。またさっきと同じように、ゆったりと智奈の口内でうごめき始めた。
舌は頬の裏側を這い、歯並の裏側を滑っていく。ただ舌で撫でられているだけなのに、くすぐったいような感覚は智奈に陶酔感をもたらした。
キョウゴは少し顔を斜め向ける。キスの角度が変わって智奈の舌が絡めとられた。智奈の領域で起きていることなのに、主導権は奪われている。
キョウゴの意思のまま舌が踊らされ、感じるはずのない味覚が刺激されて、甘ったるい蜜が口の中に生成されていく。智奈は寝転んでいるのに、それでも酔ってしまったようにくらくらしてきた。
んふっ。
蜜が溢れそうになって無意識に飲みこむと、キョウゴの舌を巻きこんで、自分のものではない小さな唸り声が智奈の口内にこもった。そうしてキョウゴは、キスにとどまらず食べてしまいそうな勢いで口を押しつけてきた。
キョウゴの舌が大きくうごめいて、智奈の舌をすくい、吸いつく。
んんんっ。
舌の神経がざわついて、あまりの心地よさに痙攣する。智奈はまた力尽き、躰がベッドに沈むような感覚がした。そのとき。
ん、くぅっ……。
力尽きたはずが、魚が跳ねるように智奈の背中が反って胸が跳ねあがる。
キスにのぼせている間に、キョウゴは智奈のパジャマの上着をはだけ、インナーをたくし上げて小高いふくらみをあらわにしていた。そのトップがそれぞれ指先で抓まれている。そうしたまま小さく揺り動かされて、智奈の胸が連続してぴくぴくと小刻みに跳ねた。はじめて知るこの感覚が快楽というものなのか、鋭すぎて落ち着く間もない。
キスと相まって呼吸がうまく整えられず、胸先の快感が躰全体に広がって寒くもないのに身ぶるいをし始めた。キョウゴは舌と指先で器用に智奈を快楽に侵し、追いつめていった。逃れられないまま、ふと気が遠くなったような感じがしたあと、智奈の躰はぶるっと波打った。
キョウゴはゆっくりと顔を上げて、くちびるを放した。
「智奈」
荒っぽく息をつきながらキョウゴが呼びかけ、智奈はぼんやりとしたまま聞き遂げて瞼を上げる。乱れた呼吸は智奈のものか。そんな認識さえ難しい。定期的に躰がびくっとして、止めようとしても止められない。
「ん……っ」
「はじめてだからか? 軽くイッてたみたいだ。智奈は敏感すぎるかもな」
その声音を聞くかぎり、文句ではなく喜んでいそうだけれど。
「……ヘン、です……か……」
智奈は不安になって、息切れしながら訊ねてみると、キョウゴのくちびるがきれいな弧を描いた。
「まさか。攻め甲斐がある。取りようによっては、智奈には褒美にも罰にもなりそうだけどな」
どういう意味だろう。キョウゴはやはり楽しそうに云う。
「罰って……」
「まずは、セックスの快楽をとことん知ってみようか」
キョウゴは、智奈の意思に関係なく強制的に導くような云い方をした。無論、智奈の返事など必要なく、キョウゴは智奈の口角に口づけたかと思うと、顔を下げていきながら口を開く。すると。
あ、ああっ。
硬く突きだした胸のトップがいきなり熱く濡れた。
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる