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12.気になるvoice
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「ちょっと待って!」
「おとなしくして。いくら智奈が小さくて軽くても、暴れると落とす。お姫さま抱っこを楽しめば? これから何度だって機会はあるけど」
キョウゴに興じながらたしなめられ、智奈はもがくのをやめた。この状況を楽しむには混乱しすぎている。智奈の戸惑いはキョウゴの目にも明らかで、それでいい、と可笑しそうにした。
斜め四十五度の角度から智奈を見下ろすキョウゴの顔の造形も見事だ――と、智奈は混乱した挙げ句、あらぬ方向に目が行ってしまった。
半ば硬直して身を任せているなか、キョウゴは智奈の部屋に入っていく。
ベッドにおろされて、躰の下から掛けぶとんが引き抜かれる。キョウゴはベッドに上がって智奈を跨ぐと、肩の横に手をついた。智奈は大きく目を見開いて真上にあるキョウゴの顔を見つめた。
さっき、智奈のことを小さいと云ったのは誇張でなく、キョウゴは三十センチ近く背が高いと思う。スマートだけれど、ベッドはセミダブルで、キョウゴが云うようには広くないうえ、この体勢だとやたらと大きく見える。
逃げなきゃ、と思ったのは条件反射的なものか、それとも本能か。けれど、キョウゴは覆い被さるような恰好をしていて、智奈には退路がない。逃げられたとしてもここは智奈の家だ。逃げ場所がない。それを見越してキョウゴがここに住むと云いだしたのだったら、用意周到、したたかな食わせ者だ。
しかも――
「キョウゴさん、襲わないって云いましたよね!?」
それもただ言い包めただけだとしたら。
智奈の疑惑のまなざしを、キョウゴは平然と受けとめ、あまつさえ笑った。
「襲ってるつもりはないけど。智奈がどうしてもお礼がしたいようだから、甘んじて受け入れようとしてるんだ」
都合のよすぎる解釈だ。智奈は信じられない気持ちでキョウゴを見つめる。
「そういうつもりで云ったんじゃ……」
「黙って。おれを住まわせてくれるお礼に気分よくさせてやるんだ。ついでに、おれも楽しむ」
キョウゴは自己主張を放ち、ストップをかけようと智奈が口を開いたと同時に顔をおろして、智奈の顔をすくうように手でくるみ、くちびるをふさいだ。
反射的に智奈が口を閉じようとした刹那、キョウゴは舌を差し入れてそれを阻止した。何がなんだかわからない。口の中をゆったりと舌がうごめく。くちびるの裏側を這い、歯並に沿い、次には智奈の舌をすくった。
んんっ。
舌と舌が絡むと、ますます訳がわからなくなってのぼせていく。
呼吸の仕方がわからず無意識に息を詰めていたけれど、それに耐えられなくなって、智奈はたまらず喘いだ。その瞬間、舌が吸いつかれて、意識がふわりと飛ぶような感覚に陥った。伴って、智奈の躰がくたっと緩む。
すると、キョウゴがゆっくりと顔を上げた。
「力が抜けるほど気持ちいい?」
キョウゴがいざなうのは答えか、それとも智奈自身か。目を開けてみても、あまりに近くにいるせいか、焦点が合わせられない。
「智奈がはじめてなのはわかってる。そのまま――感じるままにしてればいい。何もおかしいことはない」
視界がはっきりしないまま聞いた、そのなだめるような声はどこかで聞いた気がした。いや、会ったばかりでも、キョウゴの声は今日だけでもずいぶんと耳にしている。聞き覚えがあるのは当然だ。
それでも何かが引っかかって――
「キョウゴさん……まえに、会ったこと、ある……?」
智奈はそう訊ねていた。
「おとなしくして。いくら智奈が小さくて軽くても、暴れると落とす。お姫さま抱っこを楽しめば? これから何度だって機会はあるけど」
キョウゴに興じながらたしなめられ、智奈はもがくのをやめた。この状況を楽しむには混乱しすぎている。智奈の戸惑いはキョウゴの目にも明らかで、それでいい、と可笑しそうにした。
斜め四十五度の角度から智奈を見下ろすキョウゴの顔の造形も見事だ――と、智奈は混乱した挙げ句、あらぬ方向に目が行ってしまった。
半ば硬直して身を任せているなか、キョウゴは智奈の部屋に入っていく。
ベッドにおろされて、躰の下から掛けぶとんが引き抜かれる。キョウゴはベッドに上がって智奈を跨ぐと、肩の横に手をついた。智奈は大きく目を見開いて真上にあるキョウゴの顔を見つめた。
さっき、智奈のことを小さいと云ったのは誇張でなく、キョウゴは三十センチ近く背が高いと思う。スマートだけれど、ベッドはセミダブルで、キョウゴが云うようには広くないうえ、この体勢だとやたらと大きく見える。
逃げなきゃ、と思ったのは条件反射的なものか、それとも本能か。けれど、キョウゴは覆い被さるような恰好をしていて、智奈には退路がない。逃げられたとしてもここは智奈の家だ。逃げ場所がない。それを見越してキョウゴがここに住むと云いだしたのだったら、用意周到、したたかな食わせ者だ。
しかも――
「キョウゴさん、襲わないって云いましたよね!?」
それもただ言い包めただけだとしたら。
智奈の疑惑のまなざしを、キョウゴは平然と受けとめ、あまつさえ笑った。
「襲ってるつもりはないけど。智奈がどうしてもお礼がしたいようだから、甘んじて受け入れようとしてるんだ」
都合のよすぎる解釈だ。智奈は信じられない気持ちでキョウゴを見つめる。
「そういうつもりで云ったんじゃ……」
「黙って。おれを住まわせてくれるお礼に気分よくさせてやるんだ。ついでに、おれも楽しむ」
キョウゴは自己主張を放ち、ストップをかけようと智奈が口を開いたと同時に顔をおろして、智奈の顔をすくうように手でくるみ、くちびるをふさいだ。
反射的に智奈が口を閉じようとした刹那、キョウゴは舌を差し入れてそれを阻止した。何がなんだかわからない。口の中をゆったりと舌がうごめく。くちびるの裏側を這い、歯並に沿い、次には智奈の舌をすくった。
んんっ。
舌と舌が絡むと、ますます訳がわからなくなってのぼせていく。
呼吸の仕方がわからず無意識に息を詰めていたけれど、それに耐えられなくなって、智奈はたまらず喘いだ。その瞬間、舌が吸いつかれて、意識がふわりと飛ぶような感覚に陥った。伴って、智奈の躰がくたっと緩む。
すると、キョウゴがゆっくりと顔を上げた。
「力が抜けるほど気持ちいい?」
キョウゴがいざなうのは答えか、それとも智奈自身か。目を開けてみても、あまりに近くにいるせいか、焦点が合わせられない。
「智奈がはじめてなのはわかってる。そのまま――感じるままにしてればいい。何もおかしいことはない」
視界がはっきりしないまま聞いた、そのなだめるような声はどこかで聞いた気がした。いや、会ったばかりでも、キョウゴの声は今日だけでもずいぶんと耳にしている。聞き覚えがあるのは当然だ。
それでも何かが引っかかって――
「キョウゴさん……まえに、会ったこと、ある……?」
智奈はそう訊ねていた。
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