記憶の先に復讐を

秋草

文字の大きさ
上 下
17 / 28
第二章

貴族の誤算

しおりを挟む
 何でも聞いてくれと言った手前、答えを渋ることができなくなった俺だったが、すぐにそれを後悔することになった。

「ジル様と私は、どのような関係だったのですか?」
「一応は貴族と侍女、つまりは主従の関係だったな。だが、実際はもっと深い仲だったよ。所謂恋人関係、というやつだ」
「恋人……」

 そう呟いたソフィアが妙に納得したような顔だったので理由を聞いてみたら、「王子に自分が恋人だと言われた時よりもしっくりきたから、ジル様は私にとって本当に大切な方だったのだと思って」とはにかみ笑いを浮かべながら言われた。王子、なりふり構わずにも程があるだろう……。

「じ、ジル様は、その、私にどのように接してくださっていたのでしょうか?」

 うん、この表情は恋愛話に目を輝かせる少女そのものだな。俺は別に話してもいいが、君の話だぞ? 恥ずかしくならないのか?

「そうだな……まずは俺が初めて君に会った時のジルのことから話そうか」

 立ち話もなんだろうと思い、木陰に俺の上着を敷いてソフィアを座らせる。俺は彼女の隣に腰を下ろし、大木にもたれかかった。

———そんな具合に始まった思い出話。始まりこそ良かったものの、最終的に俺はソフィアからの催促に次ぐ催促のおかげで、ジルを恨みたくなるほどに糖度が高めの恋物語を散々話す羽目になった。そして同時に、今更ながらに知ることになったのだ。ジルがいかに多くの甘ったるい言動やら行動を繰り返していたかを。

「他はっ? 他に何かありませんか?」
「もう勘弁してくれ」

 結局最初の覚悟はどこへやら、自ら頭を抱えて物語りを終えることとなった。……まあ、ソフィアが再会後では一番の笑顔を見せてくれたから、悔いはない。穴を用意されたら速やかに飛び込みたい気はするが。

「そう、ですか。すみません、ずっとお話しさせてしまって」
「いや、構わない」

 頼む、そんな残念そうな笑い方をしないでくれ。一方的に話を終わらせた罪悪感で「実は他にも」などと口が滑りそうになる。

「おかげさまでジル・ラーカイズというお方のことは少しだけ分かりました。ですが……それほど大切にしてくださった方のそばに、なぜ私は今いないのでしょうか」

 月の輝きに影が差すようにソフィアの笑顔が翳る。まあ、過去を知って現状を理解したとなればそうなるよな。

「ジルは、四年前から行方不明になっている。そのことと君の記憶喪失がどう関係してるのかは分からないが….とりあえず詳しいことは週末、王子を交えての話の時にしよう」

 王子にジルのことを話せば、どんな形にせよきっと力になってくれるだろう。たとえそれが、自分に不都合な結果を生むことになってもだ。

「ジルの失踪には十中八九貴族が絡んでいるだろうが、この件に関して言えば王子は首謀者側とは無関係だと思ってくれていい。だから今はまだ、心配せずに王子に守られていてくれ」


 ジル、一人で寂しくはないか? 苦しんではいないか? 待っていてくれ、必ず、俺が二人を救ってみせるから。

 なあ、ジル、お前はまだ……倒れていないよな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...