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第二章
王子の憂さ晴らし
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男達の地鳴りのような歓声が取り囲む中、武闘場に甲高い金属音が続け様に響き渡った。ああ、むしゃくしゃする。このような気分になったのはお前のせいだからな、存分に八つ当たりさせてもらうぞ。
「殿下、殺気が凄まじいのですが」
一気に距離を詰めて振り下ろした私の剣をギリギリで受け止めたアドレイが、珍しく冷や汗をかきながら口の端を引き攣らせる。ふん、いい気味だ。
「殺意とは物騒なことを言う。ただ単に剣を向けたくて仕方がないだけだよ、お前にね」
「それを殺意と呼んでいるのですよ俺は!」
友人を本気で殺したがるような狂人ではないとは思っているが、たしかに今の感情は殺意と呼ぶものに近い荒れ具合かもしれないな。せっかく彼女を人目から遠ざけ匿ったというのに、この男は鳩一羽を探すために裏庭に入り込み彼女を見つけてしまった。たしかに、この男が王家以外は立ち入り禁止という暗黙の了解がある裏庭にも平気で入ってくる奴であることを失念していた私にも非はあるのだが、それはそれだ。
それにしても、相変わらず手強いなアドレイ。お前に早く勝って気分良く手合わせを終わらせたいのだが。
「相変わらずのしぶとさだね、アドレイ」
「そちらこそ」
このままでは埒があかない、とアドレイも思ったのだろう、私とアドレイはほぼ同時に飛び退き距離をとった。そこからもう一度剣を構え、睨み合う……と、不意にアドレイが気を逸らし、かと思えばすぐにこちらに意識を戻した。その間実に一瞬といえるが、その隙を逃す私ではない。再度素早く間を詰め、防御の僅かな遅れを逃さず剣を弾き飛ばした。
「……まったく、隙を見せればすぐこれだ。降参です、殿下」
「これで今年に入って勝率五割超え、僅かに私がリードしていることになったね」
「次は俺が勝つので問題ありません」
少しばかり悔しそうな顔で剣を拾ったアドレイと握手を交わし、そのままの流れで肩を組む。こうしている時がアドレイが自分の友人であることを強く感じるというもので、私は肩を組み健闘を讃えあうこの瞬間が嫌いではない。
「ですが、次はもう少し殺気を抑えてくださいね。周りの兵士達が怯えますから」
「おや、今日は怯えるどころか、随分盛り上がっていたようだけれどね」
「それは怯えを興奮で紛らわせていただけですよ、きっと」
まあ確かに、兵士たちの顔を見てみると興奮と安堵が同居した顔をしている。私が本気でこの男を殺そうとしているとでも思っていたのだろうか。
「以後気をつけるよ、鬼隊長殿」
「はは、お願いします、鬼畜殿下」
「ははは、その暴言が赦されるのはお前だけだよ、まったく」
私が王子であることも気にせず、昔からアドレイは私に好き勝手言うところがある。それがたまに苛つきもするが基本的に心地よいことだというのは、きっと一生この男には言わないだろう。
「さて、ひと暴れしたことだし事務仕事に戻るとしようかな」
「今日は早く帰りたいので、暇だからといって呼び出さないでくださいね」
あえてそのようなことを言うとは、私には「呼び出してくれ」と言っているようにしか聞こえない。いいだろう、仕事が終わる夕方まで待ってから話し相手に呼び出してあげるよ、親友殿。
何を話そうかと考えているうちに自然と上がっていた口角に、アドレイはあからさまに嫌そうな顔をした。笑い方一つで意思を汲み取ってくれるとは、やはり友人とは素晴らしいものだ。
「殿下、殺気が凄まじいのですが」
一気に距離を詰めて振り下ろした私の剣をギリギリで受け止めたアドレイが、珍しく冷や汗をかきながら口の端を引き攣らせる。ふん、いい気味だ。
「殺意とは物騒なことを言う。ただ単に剣を向けたくて仕方がないだけだよ、お前にね」
「それを殺意と呼んでいるのですよ俺は!」
友人を本気で殺したがるような狂人ではないとは思っているが、たしかに今の感情は殺意と呼ぶものに近い荒れ具合かもしれないな。せっかく彼女を人目から遠ざけ匿ったというのに、この男は鳩一羽を探すために裏庭に入り込み彼女を見つけてしまった。たしかに、この男が王家以外は立ち入り禁止という暗黙の了解がある裏庭にも平気で入ってくる奴であることを失念していた私にも非はあるのだが、それはそれだ。
それにしても、相変わらず手強いなアドレイ。お前に早く勝って気分良く手合わせを終わらせたいのだが。
「相変わらずのしぶとさだね、アドレイ」
「そちらこそ」
このままでは埒があかない、とアドレイも思ったのだろう、私とアドレイはほぼ同時に飛び退き距離をとった。そこからもう一度剣を構え、睨み合う……と、不意にアドレイが気を逸らし、かと思えばすぐにこちらに意識を戻した。その間実に一瞬といえるが、その隙を逃す私ではない。再度素早く間を詰め、防御の僅かな遅れを逃さず剣を弾き飛ばした。
「……まったく、隙を見せればすぐこれだ。降参です、殿下」
「これで今年に入って勝率五割超え、僅かに私がリードしていることになったね」
「次は俺が勝つので問題ありません」
少しばかり悔しそうな顔で剣を拾ったアドレイと握手を交わし、そのままの流れで肩を組む。こうしている時がアドレイが自分の友人であることを強く感じるというもので、私は肩を組み健闘を讃えあうこの瞬間が嫌いではない。
「ですが、次はもう少し殺気を抑えてくださいね。周りの兵士達が怯えますから」
「おや、今日は怯えるどころか、随分盛り上がっていたようだけれどね」
「それは怯えを興奮で紛らわせていただけですよ、きっと」
まあ確かに、兵士たちの顔を見てみると興奮と安堵が同居した顔をしている。私が本気でこの男を殺そうとしているとでも思っていたのだろうか。
「以後気をつけるよ、鬼隊長殿」
「はは、お願いします、鬼畜殿下」
「ははは、その暴言が赦されるのはお前だけだよ、まったく」
私が王子であることも気にせず、昔からアドレイは私に好き勝手言うところがある。それがたまに苛つきもするが基本的に心地よいことだというのは、きっと一生この男には言わないだろう。
「さて、ひと暴れしたことだし事務仕事に戻るとしようかな」
「今日は早く帰りたいので、暇だからといって呼び出さないでくださいね」
あえてそのようなことを言うとは、私には「呼び出してくれ」と言っているようにしか聞こえない。いいだろう、仕事が終わる夕方まで待ってから話し相手に呼び出してあげるよ、親友殿。
何を話そうかと考えているうちに自然と上がっていた口角に、アドレイはあからさまに嫌そうな顔をした。笑い方一つで意思を汲み取ってくれるとは、やはり友人とは素晴らしいものだ。
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