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兄の日記
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誰にも明かせない兄さんの秘密を知った日、写真の次に彼女を見つけたのは、兄さんが毎日欠かさずつけていた日記の中だった。
某日
夕方の、いつもと同じ時間に交番前で彼女を待っていたが、なかなか姿を見せないことに嫌な予感を覚えた。見回りも兼ねて駅周辺で彼女を探した。そうして行きついた公園の茂みから聞こえた悲鳴の先にいたのは、仰向けで必死に脚をばたつかせる彼女と、彼女に馬乗りになったクズだった。その時の自分が一体何をしたか、実はあまり覚えていない。ただ一瞬にして頭に血が上り、もしかしたら彼女の上から蹴り飛ばしたかもしれない。最終的にはちゃんと未遂で逮捕した記憶はある。本音を言うとアレは骨を折るなり何なりもっと痛めつけてやってもよかったと思うのだが、その時の自分は彼女の保護を優先したのだろうということで良しとする。
温厚な兄の、実は血気盛んな一面を垣間見る記述だ。そして、彼女の辛い過去も知るものだった。なるほど、兄がここまで彼女に執着する原因というわけか。
某日
はじめのうちは交番から駅までの送り迎えくらいだったが、それがいつのまにか彼女の家から駅までに延びている。ちなみに今日は非番だったので、彼女の高校までの道をそれとなく見守った。
そうして見守る時間が増えてくると、心配も比例して増してくるらしい。気がつけば俺の日常は彼女中心で回っているようだ。
その記述の通り、これより先の日記に「彼女」の文字が出てこない日はない。今日は随分楽しげに出かけていっただとか、帰りがいつもより遅いので見回りついでに駅まで迎えにいっただとか……それはもう毎日のように、彼女の日常記録の如く書き連ねられている。
11月23日
ふとした会話の中で漏らした俺の誕生日。祝いの言葉と共に洒落たボールペンをくれた。彼女のために大したこともできていないのに、大輪の花の如く笑い祝ってくれたのだ。そのことがひどく嬉しくて、愛しくて、何としても守り抜くのだという決意を新たにした。
某日
誕生日プレゼントのお礼に、彼女が好きなアニメキャラクターのぬいぐるみキーホルダーを贈った。中には発信機を入れておいたから、彼女があげたその場で嬉しそうに通学バッグにつけてくれた時は安心したし、ただただ嬉しかった。これからは俺がいないところで何があっても、すぐに駆けつけられる。
ここまで読んで、一旦数日分を読み飛ばす。日記の大体の内容は掴めたので、ひとまず最後の記録を読むことにした。
日記の最後の日……それは、兄さんが凶弾の前に倒れる二日前だった。
12月20日
もうすぐ彼女の誕生日だが、ここに来て先輩から慰安旅行に誘われてしまった。明日出発して明後日帰宅……まあ、誕生日には間に合いそうなので仕事の付き合いと思って我慢しよう。24日は伊築の誕生日でもあるので、仕事終わりに実家に帰ろう。伊築は俺の大事な宝物で、きっと唯一の理解者だ。俺がいつか不意に死んだとしたら、彼女のことはあいつに頼みたい。伊築であれば、俺と同じように彼女を大事にしてくれるだろうから。
俺も同じような性格だと察しているあたり、弟のことを本当によく見ていたのだろう。
任せてよ、兄さん。兄さんが死の間際まで気にかけていたであろう彼女のことは、これからは俺が守ってみせる。
そうして俺は、彼女のことを調べ始めた。それが大体、一年前のこと。
某日
夕方の、いつもと同じ時間に交番前で彼女を待っていたが、なかなか姿を見せないことに嫌な予感を覚えた。見回りも兼ねて駅周辺で彼女を探した。そうして行きついた公園の茂みから聞こえた悲鳴の先にいたのは、仰向けで必死に脚をばたつかせる彼女と、彼女に馬乗りになったクズだった。その時の自分が一体何をしたか、実はあまり覚えていない。ただ一瞬にして頭に血が上り、もしかしたら彼女の上から蹴り飛ばしたかもしれない。最終的にはちゃんと未遂で逮捕した記憶はある。本音を言うとアレは骨を折るなり何なりもっと痛めつけてやってもよかったと思うのだが、その時の自分は彼女の保護を優先したのだろうということで良しとする。
温厚な兄の、実は血気盛んな一面を垣間見る記述だ。そして、彼女の辛い過去も知るものだった。なるほど、兄がここまで彼女に執着する原因というわけか。
某日
はじめのうちは交番から駅までの送り迎えくらいだったが、それがいつのまにか彼女の家から駅までに延びている。ちなみに今日は非番だったので、彼女の高校までの道をそれとなく見守った。
そうして見守る時間が増えてくると、心配も比例して増してくるらしい。気がつけば俺の日常は彼女中心で回っているようだ。
その記述の通り、これより先の日記に「彼女」の文字が出てこない日はない。今日は随分楽しげに出かけていっただとか、帰りがいつもより遅いので見回りついでに駅まで迎えにいっただとか……それはもう毎日のように、彼女の日常記録の如く書き連ねられている。
11月23日
ふとした会話の中で漏らした俺の誕生日。祝いの言葉と共に洒落たボールペンをくれた。彼女のために大したこともできていないのに、大輪の花の如く笑い祝ってくれたのだ。そのことがひどく嬉しくて、愛しくて、何としても守り抜くのだという決意を新たにした。
某日
誕生日プレゼントのお礼に、彼女が好きなアニメキャラクターのぬいぐるみキーホルダーを贈った。中には発信機を入れておいたから、彼女があげたその場で嬉しそうに通学バッグにつけてくれた時は安心したし、ただただ嬉しかった。これからは俺がいないところで何があっても、すぐに駆けつけられる。
ここまで読んで、一旦数日分を読み飛ばす。日記の大体の内容は掴めたので、ひとまず最後の記録を読むことにした。
日記の最後の日……それは、兄さんが凶弾の前に倒れる二日前だった。
12月20日
もうすぐ彼女の誕生日だが、ここに来て先輩から慰安旅行に誘われてしまった。明日出発して明後日帰宅……まあ、誕生日には間に合いそうなので仕事の付き合いと思って我慢しよう。24日は伊築の誕生日でもあるので、仕事終わりに実家に帰ろう。伊築は俺の大事な宝物で、きっと唯一の理解者だ。俺がいつか不意に死んだとしたら、彼女のことはあいつに頼みたい。伊築であれば、俺と同じように彼女を大事にしてくれるだろうから。
俺も同じような性格だと察しているあたり、弟のことを本当によく見ていたのだろう。
任せてよ、兄さん。兄さんが死の間際まで気にかけていたであろう彼女のことは、これからは俺が守ってみせる。
そうして俺は、彼女のことを調べ始めた。それが大体、一年前のこと。
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