上 下
1 / 3

しおりを挟む


 行為中に、夫にこんなことを言われた。


 「お前さ、抱きごこちが悪いんだよな…」


 こんなことを言われたのは初めてだ。私は公爵令嬢の末っ子であり、長身な姉に比べ、小さな身長でこの世に生を受けた。すなわち、それが私の欠点コンプレックスとなる。

 そして、同じく小さい頃から酷く痩せていて、いくら食事をとろうと、なかなか太ることが出来なかった。それは、女性として一見良さげだが、抱かれるときは、少し太っている方がいいと、本を読んだ。

 確かに、父上や周りからも、「サナ、お前は確かに可愛く、自慢の娘ではあるが、もう少し、体型を意識してほしい」「サナは可愛いけど、胸とか尻とかもっと肉体的に欲しいよな」とか、さんざん言われ続けている身であった。

 今の私の夫は、公爵令息のミント・クルーザー。ミントは、私を「可愛い」「美しい」とずっと褒めてくれていたものの、今、行為にいたり、欠点コンプレックスがあらわになってしまった。


 「もういいや。気分が乗らない。やめようか。このまま続けても、お互いに気持ちよくない。」


 私は、仕方ない気持ちと、謝罪したい気持ちでウンと頷き、服を着始めた。


 (どう説明するべきか。この体型は、生まれつきのもので、どうかこんな身体で許してほしいと許しを乞うべきか。)


 しかし、ミントは私を「ただただ性欲を満たすための存在」と扱っているのか。そんなに抱きごこちが悪いことが悪いことなのか。まるで、後悔したような言動に少し悲しみも覚えた。


 <顔は可愛いけど、イマイチ興奮しねぇな>


 今、そうボソッと呟いたのが、明らかに聞こえた。だが、それに対して怒ったり、謝ったりすることもなく、ただ呆然と服を着ていた。


 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


 「抱きごこちが悪い」と夫に言われたことを、姉に打ち明けると、姉は怒ってくれた。


 「そんなことはないわよ!良い?抱きごこちで女の良し悪しを決めるのは最低な男なのよ。それはもう離婚も考えた方が良いわ。その後の相手の態度しだいで!」


 なるほど。やはり、これは体型が元々悪い私より、断然に彼の方が悪いのか。


 「あなたには悪いかもしれないけど、離婚っていうのも、必ずしも悪いことではないわ。逆に、嫌な人と離婚せず、耐えて人生を送るのならば、それは逆に損するだけよ。第一、これはあなたに原因なんか無いんだから。全部相手のせいなんだから。」


 姉は、私を支持してくれている。


 「お姉さんの体型が羨ましいよ。長身で、胸は大きくて、尻も大きくて、痩せ過ぎてないし。」
 「そうね。少し最近食べ過ぎちゃったのもあるわね。」


 姉は本当に理想的な女性の身体をしている。そして、顔も美人だ。(なんなら私よりも)


 別に姉を非難するわけでは無いが、姉は私の気持ちを分かっているのだろうか。と思ってしまう。姉は、こんな気持ちになったことがないだろう。自分の欠点コンプレックスを取り上げられたあげく、そのことについて相手に指摘されることを。


 その後、姉とは別れ家に帰った。そこには、夫の姿があった。


 「あれぇ?早いわね。どうしてこんなに?」
 「は?何でも良いだろ。仕事が早く終わっただけだ…」


 何か、彼が隠し事をしているように感じる。気のせいだろうか。だが、何か怪しい。


 「何か隠してるの?変に慌ててるみたいな…」
 「だから何でもないって!何なんだよ!最近のお前はよ!」


 そう怒鳴って、部屋に行ってしまった。何をそんなに怒る必要があるのか。それと、とは、どういうことだろうか。最近、私は彼に対してしつこくしたり、怒ったり、嫌がらせをしたりした覚えはない。


 「ん?なぁに、これ…?」


 私は、一枚の紙切れを拾った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下に真実の愛だと見染められましたが、殿下に婚約者がいるのは周知の事実です

葉桜鹿乃
恋愛
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け止めて欲しい」 何を言ってるんだこの方は? という言葉を辛うじて飲み込んだユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢は、頭がどうかしたとしか思えないディーノ・ウォルフォード王太子殿下をまじまじと見た。見つめた訳じゃない、ただ、見た。 何か否定する事を言えば不敬罪にあたるかもしれない。第一愛を囁かれるような関係では無いのだ。同じ生徒会の生徒会長と副会長、それ以外はクラスも違う。 そして何より……。 「殿下。殿下には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」 こんな浮気な男に見染められたくもなければ、あと一年後には揃って社交界デビューする貴族社会で下手に女の敵を作りたくもない! 誰でもいいから助けて欲しい! そんな願いを聞き届けたのか、ふたりきりだった生徒会室の扉が開く。現れたのは……嫌味眼鏡で(こっそり)通称が通っている経理兼書記のバルティ・マッケンジー公爵子息で。 「おや、まぁ、……何やら面白いことになっていますね? 失礼致しました」 助けないんかい!! あー、どうしてこうなった! 嫌味眼鏡は今頃新聞部にこのネタを売りに行ったはずだ。 殿下、とりあえずは手をお離しください! ※小説家になろう様でも別名義で連載しています。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました

紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。 だがそれは過去の話。 今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。 ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。 タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。

処理中です...