この世が異世界となった日から

あけざき けい

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旧世界より

9.決別

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 ――私の答えは問われるまでもなく決まっていたのかもしれない。上司に成果を横取りされたとしても仕事として与えられた事を投げ出す事は社会人として、いや人間としての信頼を失う。その恐怖と義務そしてやり遂げれば成果が残らなくても自信が残る。それに渡りに船のガイド付きだ。やらない理由は無い。無い筈なんだ。

 『エクシバスさん。私は、今まで自分の生きている意味が分からなかった。だから少しでも人の役に立とうとこんな仕事をしてきた。だけど今、あなたは私を認め意味をくれたんだと思います』

 エクシバスさんは口元を緩め、ゆっくりと頷く。

 『ええっ。やらせて下さい。私で良ければ!』

 エクシバスさんは、瞳を潤ませ私の手を握った。

 『あぁぁぁっ ありがとう!これで全ては動き出す!そう!君の手でね!』

 『さあ!そうと決まれば行動あるのみですよ!行きましょう!』

 私は颯爽と重い扉を開けて施設の中に戻り、荷物に手を掛ける。

 『おにーさん気持ちは嬉しいけど、少し説明する時間をくれないか?それに荷物も減らした方がいい』

 確かに少し勇み足だったと荷物を降ろし、彼の言葉を待った。

 『まず、日が暮れるまでにはここへ戻る事だ。石がある場所まで徒歩2時間といった所かな。往復4時間として、今は13時過ぎか……18時がリミットって所かな』

 『確かに未開の地で日が暮れたら遭難のリスクもありますしね。でしたら日を改めますか?』

 『それは難しい、日を追うごとに、石は安定化して結界は弱まってしまう。それにもう一度ここへ君を招き入れる事も出来るか分からないん。これがラストチャンスだと思うべきだね』

 私は頷き、荷物の選別に取り掛かる。作業をしながら石までの予想ルートなど打ち合わせをした。

 『観測塔の真下に橋が見えたでしょ?あれを渡って潜入する訳だけど堂々とゲートを抜けて行くわけにはいかないんだ。さすがに特区へ通じるメインゲートだからね、人はいなくても監視カメラとかセキュリティーは厳重だよ』

 『じゃあ橋を使わず船ですか?』

 『いや、そんな時間はない。ゲートは大型の車両用だけど、脇に通用口がある。そこを突破するのさ』

 『セキュリティーは厳重なのでしょ?どうやって?』

 『なに、下調べは万端さ!』

 エクシバスさんは観測室から隣の小部屋へと入ると、大きなアルミ箔の筒の様な物を持ち出してきた。
 
 『この金属箔で機材を包んでほしいんだ』

 『電磁波よけですか?』

 『おっ!良い線いってるよー!けどちょっと違うかな。フォルツァ14が出す電磁パルスから守るためだよ』

 『まさか、電磁パルスでセキュリティーを無力化する気ですか!?』

 『まぁそんな所かな。配電盤にサージ電圧をかけて少し誤作動させる程度で金属箔は保険だよ』

  フォルツァ14・・・・・・・なんでもありかよ。特区にある石はもっとでかいんだろ?これは世界征服だって夢じゃないな。私は顔を伏せ、黙々と機材を金属箔で包んだ。今顔を上げたら、にやけた顔をエクシバスさんに見られてしまうと思ったからだ。彼は真剣だ、こんな顔をしたら、欲に目が眩んだと思われてもしかたない。
 
 私は動きやすい服装に着替え必要な道具をリュックサックに詰め込み背負う『準備はOKです』とエクシバスに告げ立ち上がる。

 『じゃあ作戦だけど』かれはそう言いながら、先ほどの扉を開けて外を指さす。

 『すぐ下にゲートが見えるだろ?すぐ左にあるのが通用口だ。セキュリティーを無力化するには、この観測塔にある配電盤に細工をする必要がある。観測塔を出たら、ボクがこの扉から合図をだす。そうしたら真っすぐ通用口へ走って欲しい。なに10メートル程だから問題ないだろ?』

 私もドアから頭を出し見下ろす。通用口を抜ければ橋まで10メートル橋の長さは50メートルといった所か。

 『扉は電子ロックだけど、停電しても中からは開くからね、そのまま橋へと走るんだ。その時もし警報がなっても振り向いたり立ち止まってはいけないよ。そこで捕まれば全て水の泡だからね』

 『わかりました』私はゆっくり頷きながら唾を飲み込む。
 
 『問題なく行けば私も後を追うけど、もしもの時は足止めをするよ。だから君に地図を渡しておく』

 私は手渡された地図をポケットに押し込み、エクシバスさんの手を取った。

 『では一旦ここで別れよう。橋を渡ったらすぐに物陰に隠れて私を待ってくれ』

 『はい。エクシバスさんもお気をつけて』

 私たちは信頼を確かめ合うように強く拳を握り合うと二手に分かれる。

  塔を降りて、外壁の通路にあるドアが見える位置へと移動する。周囲を警戒し見回すが、やはり人影はない様で100メートルほど離れた大きな施設に航空機が見えるだけだった。

 ゲートの付近には監視カメラが設置されている様なのでしばらく物陰で待機していると、エクシバスさんが扉から現れ、手で合図を出す。私は大きな音や眩いスパークを想像していたが、特に変わった様子は無く一瞬戸惑い、再び彼に目をやる。

 彼は扉を指さし口パクで『行って!』と言っているようなので私は無我夢中で10メートルほど離れた扉めがけて走り出した。

 重い鉄の扉に手を掛けて力いっぱい開き、チラリとエクシバスさんの方を見た。彼の顔は笑っているように見えた。

 『振り向いたり、立ち止まってはいけないよ』彼の言葉を思い出し私は、まだ見ぬ未開の地へと一歩を踏み出し走った。すると後ろで重い扉は独りでに閉じた様で「カチャ」とロックがかかったような音が聞こえた。

 咄嗟に振り向こうとした瞬間、警報音の様なサイレンが鳴っり、私は脱兎の如く橋へと走った。

 仮設の橋なのだろうか金属製の橋が特区へと続いている。

 橋の向うには大きなコンテナや車両が見える。とにかくあそこまで走って身を隠さなければ。そう思い走る50メートルは緊張や足場の悪さからか思い通りには走れなかったが、何とか渡りきるとコンテナの裏に身を隠し今来た基地の方を覗う。

 サイレンは時報のサイレンの様に短い時間で止まったが、ゲートが開き、装甲車と武装した隊員らしき人影が姿を現す。

 『どうする……これじゃエクシバスさんは出て来れないだろうな』

 しばらく様子を覗うが橋を渡ってこちらに来る様子は無かった。

 『あぁ・・・・・・・くそ!冗談じゃない!なんで武装した兵隊が出てくるんだよ!ここ日本だよなーっ!』

 私はここを離れるべきだと思い走り出した。

 海岸線は草木も塩水で枯れているのか比較的、進みやすそうだったので基地が見えなくなる位置まで一気に進むと、巨大な石の建造物らしき物が姿を現した。

 『これは遺跡か?』

 地図によるとしばらくこの中を進まなければいけない様だった。

 地面の傾きに合わせ斜めに生える石の塔らしき建造物が密集し海の中へと続いている。私はカメラを構えシャッターを切りながら慎重に近づいて行くと、大きな物は5階建てのビル程ある様だった。

 『コンクリートでも石でもない』

 触れるとヒンヤリとするが金属でもないが確かにこれは人工物だった。

 入口や窓の様なものは見当たらないが、所々に文字の様な刻印が施されている。

 以前は整地されていたのか、比較的平らな地面で歩きやすいが、地面自体が傾いているし建造物も勿論斜めで平衡感覚がおかしくなりそうだった。

 フラフラとしばらく歩いて行くと、大きく開けた広場の様な場所に出た。半分以上水没しており広場の中心部にそびえる塔のような建物には近づけなそうだった。どうやらここを中心に遺跡は配置されているようだった。

 『ん?あれは……』
 
 オレンジ色の物体を見つけて近づいてみると、それはレジャー用のゴムボートとテントだった。

 『先客がいるのか?』
 
 私は焦りを感じ慌てて駆け寄ると、随分前から放置されている様でテントの中には鳥の巣が作られボートは空気が抜けていた。

 辺りにはペットボトルや釣り糸が散乱している。どうやらここでキャンプをしていた様だった。

 『持ち主はいったいどこへ行ったんだ?』

 ボートを捨てて橋を渡ったのか?ここを離れたにしては荷物が随分残っている。テントに残されたカバンは動物に荒らされたのか引き裂かれて、衣類などが散乱している様だった。

 『動物対策はしてこなかったな……』

 腕時計を見ると14時を過ぎている。寄り道をしている時間はないな。


 進まなければ……。

 
 


 

 


 
 

 

 
 

 



 

 

 

 
 




 

 

 


 
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