52 / 56
第31話 2週間後に パトリシア視点(2)
しおりを挟む
「テオドール様、こちらです。ここが、私が寄りたかった場所です」
今は私達が立っている場所、それはクーレル邸にある広々とした空間。こちらはパーティー会場として利用されている、私の人生が変わった場所。
クーレル侯爵家邸を訪れる機会は、もうないと思いますので。最後にどうしても、この方とこの場に立ちたかったのです。
「…………私は何度も招待状を送られ、幾度もここを訪れました。見世物、話の種にされてきました」
私がこの空間に足を踏み入れると、空気が変わるんです。沢山の視線と様々な悪口と陰口が生まれるようになって、それらが容赦なく突き刺さりました。
「…………この夜も、そうなるのだと思っていました。ですが、それは違っていました、大間違いでした。その日の私は、お声をかけられるんです」
壁の花となって、耐えるだけの時間。そうは、ならなかったのです。
「そうして私はテオドール様と出会い、それだけでも嬉しいことなのに、想っていただけて。世界が、変わりました」
灰色だった景色に、色が付く。赤や青や黄色や緑。目の前の光景が、ぱぁっと鮮やかになりました。
「交際をさせていただくようになってからは、もっともっと、様々なものを頂きました。熱で倒れた時は、お傍に居てくださって……。ジェルマン様の時は、怒ってくださって……。そして」
一度口の動きを止め、両手で顔を――。かつてコブがあった部分に触れました。
「あの変化が、呪いだと見破ってくださって……。即座に動いてくださって……。作戦を立ててくださって……。この呪いを、解いてくださった……。取り戻して、してくださいました」
もう二度と訪れないと諦めかけていた、かつての日々。私の、お父様とお母様の笑顔を、取り戻してくださいました。
「今のこの私で、こんな気持ちを抱いて、ここに立っていられるのはテオドール様のおかげです。見つけてくださって、愛してくださって、守ってくださって、ありがとうございます……っ。私は、幸せ者です……!」
今も私の胸元で輝く、お守り。そのエメラルドとそっくりな、綺麗なグリーン。目の前にある二つの瞳をすっきりとしている視界で見つめ、感謝と言葉と満面の笑顔を送らせていただきました。
そうしたら――。
同じようなお顔が、返ってきて。優しく、抱き締められて。そっとぎゅっと私を包み込んでくれたテオドール様は、不意にこんなことを仰られたのでした。
「レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?」
今は私達が立っている場所、それはクーレル邸にある広々とした空間。こちらはパーティー会場として利用されている、私の人生が変わった場所。
クーレル侯爵家邸を訪れる機会は、もうないと思いますので。最後にどうしても、この方とこの場に立ちたかったのです。
「…………私は何度も招待状を送られ、幾度もここを訪れました。見世物、話の種にされてきました」
私がこの空間に足を踏み入れると、空気が変わるんです。沢山の視線と様々な悪口と陰口が生まれるようになって、それらが容赦なく突き刺さりました。
「…………この夜も、そうなるのだと思っていました。ですが、それは違っていました、大間違いでした。その日の私は、お声をかけられるんです」
壁の花となって、耐えるだけの時間。そうは、ならなかったのです。
「そうして私はテオドール様と出会い、それだけでも嬉しいことなのに、想っていただけて。世界が、変わりました」
灰色だった景色に、色が付く。赤や青や黄色や緑。目の前の光景が、ぱぁっと鮮やかになりました。
「交際をさせていただくようになってからは、もっともっと、様々なものを頂きました。熱で倒れた時は、お傍に居てくださって……。ジェルマン様の時は、怒ってくださって……。そして」
一度口の動きを止め、両手で顔を――。かつてコブがあった部分に触れました。
「あの変化が、呪いだと見破ってくださって……。即座に動いてくださって……。作戦を立ててくださって……。この呪いを、解いてくださった……。取り戻して、してくださいました」
もう二度と訪れないと諦めかけていた、かつての日々。私の、お父様とお母様の笑顔を、取り戻してくださいました。
「今のこの私で、こんな気持ちを抱いて、ここに立っていられるのはテオドール様のおかげです。見つけてくださって、愛してくださって、守ってくださって、ありがとうございます……っ。私は、幸せ者です……!」
今も私の胸元で輝く、お守り。そのエメラルドとそっくりな、綺麗なグリーン。目の前にある二つの瞳をすっきりとしている視界で見つめ、感謝と言葉と満面の笑顔を送らせていただきました。
そうしたら――。
同じようなお顔が、返ってきて。優しく、抱き締められて。そっとぎゅっと私を包み込んでくれたテオドール様は、不意にこんなことを仰られたのでした。
「レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?」
2
お気に入りに追加
697
あなたにおすすめの小説
喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
王子、侍女となって妃を選ぶ
夏笆(なつは)
恋愛
ジャンル変更しました。
ラングゥエ王国唯一の王子であるシリルは、働くことが大嫌いで、王子として課される仕事は側近任せ、やがて迎える妃も働けと言わない女がいいと思っている体たらくぶり。
そんなシリルに、ある日母である王妃は、候補のなかから自分自身で妃を選んでいい、という信じられない提案をしてくる。
一生怠けていたい王子は、自分と同じ意識を持つ伯爵令嬢アリス ハッカーを選ぼうとするも、母王妃に条件を出される。
それは、母王妃の魔法によって侍女と化し、それぞれの妃候補の元へ行き、彼女らの本質を見極める、というものだった。
問答無用で美少女化させられる王子シリル。
更に、母王妃は、彼女らがシリルを騙している、と言うのだが、その真相とは一体。
本編完結済。
小説家になろうにも掲載しています。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる