あんなことをしたのですから、何をされても文句は言えませんよね?

柚木ゆず

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エピローグ アンジェリクのその後 俯瞰視点

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 クロフフォーラ伯爵家には、領民のみならず全国民に慕われている当主がいました。
 彼女の名前は、アンジェリク。
 アンジェリクは今から9年前に、諸事情で身を引いた父親の代わりに当主に就任。その直後から様々な形でクロフフォーラ家を支え、様々な形で領民たちに尽くしてきました。

 ――常に、自分より『領民』の幸せと『家』の発展を優先する――。

 そのため領民たちの間では『歴代最高の当主様』と呼ばれており、毎年誕生日には領民たちが盛大にお祝いするほどの慕われる存在となっていました。

 そんなアンジェリクは、領地外でも非常に有名。廉価な解熱剤の開発、製造、販売によって尊敬の念を得たのですが、それ以上にアンジェリクの名が有名になったのは『薬の無償提供』。
 効果が非常に高かったものの、悪い影響があるため使えなかった風邪薬。その悪い影響だけをなくす『合わせて使う薬』を発表し、更には『利益は全て薬師を志す者と病気の人々への支援に使う』と宣言したのです。

 ――莫大なお金を自分のためではなく、薬師と病人のために使う――。

 それによって『お金がなく薬師の勉強ができなかった者』や『お金がなくて充分な治療を受けられなかった者』やその家族、関係者から深く感謝をされ、その他の場所では『奉仕の薬師様』という名で呼ばれていました。

 歴代最高の当主様。奉仕の薬師様。
 アンジェリクには2つの異名がありましたが、更にもう一つ。とある人物だけに呼ばれている名がありました。

『アンジェ』

 そう呼ぶ人物は、ノゾボアス伯爵家の次男シャルル。今はアンジェリクの夫であり同じ一級薬師として、公私でアンジェリクを支えている男性です。

「こんにちは。貴方も受験されるのですか?」
「はい、そうです。貴方も、ということは……」
「ええ、僕もなんです。人の役に立ちたくって、薬を作れるようになりたいとおもっていまして。子どもは僕しかいないと思っていて、驚いています」

 ふたりが初めて出会ったのは、一級薬師の試験を受けるために訪れた会場。当時アンジェリクは14歳、シャルルは15歳。周りは大人ばかりだったため言葉を交わし、お互い試験に集中するため、その時はそのやり取りだけで終わったものの――

「貴方は、アンジェリク様、ですよね? お久しぶりです」
「……シャルル、様……!? お久しぶりです」

 ――ローベランル湖で再会。それを切っ掛けに再び交流が始まり、同じ場所に興味を持っていたように、共通点がとても多かった。
 そのため時間に比例して関係は深まってゆき、やがて交際、婚約、結婚と、2人の関係は進展していったのです。

「アンジェ、今日もお疲れ様。僕の方もひと段落着いたから、月を見ながらワインでも飲まない?」
「いいですね、飲みましょう。シャルさんとお酒を飲むのは久しぶりで、嬉しいです」
「僕もだよ。嬉しい。幸せだよ」

 幼い頃から誰かの幸せのために、動き続けていたアンジェリク。
 そんな彼女はその後自分の幸せも手に入れることができて、そんな幸せはこの先もずっと、続いてゆくのでした――。




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