黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う

柚木ゆず

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第9話 2人のその後(1)

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「橋本さん、ごめんなさい。お財布の件とか、イジメの噂を信じてしまっていて……。ずっと酷いことを言ってました」
「実際は、橋本さんが被害者だったのに……。一番傷付いていたのに……。助けないどころか、冷めた目で見てしまって……。ごめんなさい」

 エリスと蓮と、別れたあとの事――。エリスに指示された時間に登校すると、涼子を待っていたのは以前のような日常でした。

「部内で盗難が発生していた時、リョーコは泣きそうな顔で否定をしていたのに……。あたしは、あたし達は、決めつけてしまった。謝って許されることではないけど……。すみませんでした」
「「「「「橋本さん(涼子さん)、すみませんでした」」」」」

 教室でも部室でも誠実さを伴った謝罪があり、全員心から反省をしていました。そして心優しい彼女は、

「私は何もしていない。そう分かってもらえたら、それでいいんです……っ。部長、皆さんも。大会が近いですし、コートで練習しましょうっ」

 快く謝罪を受け入れ、嬉し涙を浮かべた笑顔を返します。

 ――人間性がはっきりと表れた、言葉と表情――。

 それらが更に周囲の敬意であり好意を増幅させ、瞬く間に彼女は部内外で人気者になりました。
 その結果涼子は公私共に充実した日々を送れるようになり、そうなれば当然、部活動テニス人生にも勢いが出ます。

「橋本さん、頑張れっ! 負けるなっ!」
「あと1ポイント……っ。お願い…………………………やった! 勝った!!」

 中学生になって初めての大会で、見事勝利。その後も堅実なプレーで勝ち星を積み重ね、

「橋本涼子。君を、次期部長に任命する」

 成績に加えて人柄、人望、練習に対する姿勢が高く評価され、常勝校のキャプテンに就任。
 部のトップになった涼子の勢いは更に増し、涼子率いる女子テニス部は全国団体戦で準優勝。涼子自身は、個人の部で優勝という好成績を残したのでした。
 そして卒業後は名門高校に入学、やがては夢だったプロテニスプレーヤーとなり、忙しくも希望に溢れた毎日を送っているのでした。

 ちなみに――。

 新進気鋭のテニスプレーヤー、橋本涼子。彼女は雑誌などのインタビューの際には、必ず、こう答えているそうです。

「尊敬している方、ですか? それは、とある女性と男性です。その方々のおかげで今の自分がありまして。人生の、恩人なんです。いつか世界――グランドスラムで優勝した姿をお見せするのが、私なりの恩返しだと思っています」


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