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第9話 逆監視4日目 監視スタート (1)

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《ああもう……っ。書類が多いんだよっ!》

 午後2時9分17秒。アークス殿下専用の執務室に、怒声が響き渡りました。

《文字を読んでサインを書いて、判を捺す。こんなの誰でもできるだろっ! なんで王太子がやらないといけないんだよっ!》

 殿下は木製のデスクに拳を落とし、それによって怒りが――収まりはしません。その行為が却(かえ)って怒りを増幅させ、ペンを床に叩きつけました。

《前々から不満だったんだよっ。王太子は、王太子しか出来ない仕事をやればいいんだっっ! こんなの他のヤツがやっておけばいいんだよっ!》

 殿下は乱暴に立ち上がって従者さんを呼び、問答無用で仕事を押し付けたあと、何かを摘まむべく食堂に向かいました。
 4日目の変化は、性格の変化。元々意地悪く攻撃的だったソレに攻撃性が上乗せされたため、非常に血の気が荒くなっています。

《チっ。もっと早くこうするべきだったんだ……っ。散々損した……っ!》

 何度もぶつくさ呟きながら廊下を進み、広くて豪奢な食堂に入ります。すると事前に待ち合わせをしていたかのように、残りの家族も――4人も、やって来ました。

《れれっ? 兄さんも仕事をストップしたの?》
《ああ。報告に来たクオスが近くにいたから、アイツに任せておいた。……『も』、ということは……》
《うむ、わたしを含めた全員がそうらしい。今日はどうも、無性にイライラするのだ》
《俺もです。『俺達がやらなくてもできる事でしょう!』と思って、やってられなくなりますよね》
《そういう時は、何かを食べてリラックス。それが賢い生き方よね》

 5人はシェフにステーキを挟んだサンドウィッチを作らせ、ガツガツ貪ってすぐに完食。おかわりを頼んだあとは《作るのが遅い》や《僕達が一つと言ったら二つ用意するもんだよね~》と全員で愚痴の大合唱を行い、そんなことが3回繰り返されます。
 軽く摘まむはずが結局それぞれ4人前を平らげ、ようやく満足の息を吐き出しました。

《ふぅ、多少はイライラが減ったな。だが、仕事をする気にはならない》
《同感だな。ここでもう少し寛ぐとするか》
《さんせーいっ! ねーねー。みんなで遊ばないっ? ゲームしない?》
《ゲーム? 俺は構いませんが、何をしますか?》
《5人で出来るなら、そうね……。ババ抜きオールドメイドが適当でしょうね。すぐに用意させるわ》

 妃殿下が強めに手を打ち鳴らし、その場にトランプが用意されました。

《そういえば。家族でトランプをするのは、久しぶりだな》
《だねーっ。楽しみ楽しみっ!》

 国王様にロイ様が頷き、5人は笑顔でゲームを始めます。
 ですが――。

「ゲームって、勝者と敗者が必ず決まるっスよね? これって、大事(おおごと)になるような……」

 そうですね。ラズフ様の、仰る通りです。
 これから彼らの表情はどんどん、悪い方向へと変化してゆくことになります。


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