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第1話 監視者の来訪と、変化のはじまり (1)

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「聖女エリーナ・ミウヴァ様、お初にお目にかかります。王太子殿下より監視役を拝命しました、リュシアン・ラズフ、17歳でございます。…………ちなみに今の、ちゃんと敬語になってますっスよね?」

 翌日の朝、神殿内にある聖女の私室。ツンツン髪でツリ目気味の男性が独りで現れ、折り目正しく背を曲げた後で腕組みをしました。
 良く言えば天真爛漫、悪く言えばものすごくお子様っぽい。初めて見るタイプの方ですね。

「体が敬語に拒否反応を示していて、使わなかったらすぐ忘れちゃうんスよ。大丈夫でしたかね?」
「おおむね問題はありませんよ。気疲れを起こされるようでしたら、貴方が喋りやすい口調にしてください。私達は同い年ですし、そもそもそういうことに不満を覚えはしませんので」

 内に宿った聖なるが偉大なだけであって、私自身は平凡なもの。覚醒した日から日々努力を重ね、己を厳しく律して、やっと歴代聖女と肩を並べられる程度の人間です。
 自分自身が偉いとは全く思ってはいないため、態度や口調は気に致しません。

「ミウヴァ様、感謝しますっス。んじゃお言葉に甘えてっと。この口調で、監視についての細かな説明をさせていただくっスよ」

 ラズフ様はコホンと咳ばらいをして、「ごぼっ!? ごぼっ!?」、咳払いをやり過ぎて咽る。しばらく涙目で苦しんだ彼は目尻を拭い、今度は控えめに咳ばらいをしました。

「俺が聖女様のお傍にいるのは、祈りの時のみ。全5時間をチェックしてその間に手抜きが一切ないと判明したら、その日は撤退。これを、王宮の住人――殿下達が納得するまで、最低でも一か月間は繰り返すそうっス」
「そうなのですか。随分と長い期間なのですね」
「あの人達は、不幸を聖女のせいだって思い込んじゃってますっスから。都合の悪いことは人のせいにする連中ほど、面倒な存在はないっスよねぇ」

 彼は両の掌を逆さにして両肩を軽く上げ、私は僅かに目を細めます。
 ラズフ様は聖女が祈る場面を見てはいないので、怠けてる可能性があると言われたら大なり小なり疑いを持つはずです。けれどこの人にはそれが皆無で、そこが気になりました。

「ラズフ様。貴方とは初対面ですし、聖女を盲目的に崇拝しているようには映りません。なのになぜ、殿下達が誤りだと確信されているのですか?」
「それは殿下達5人と、貴方の瞳を見たからっスよ。って、それだけじゃチンプンカンプンっスよね? てなワケでまずは、俺についてご説明するっスよ」

 私の両目を直視していた彼は小さく舌を出し、パチンと右の指を鳴らしました。そうすると――これは、なんなのでしょうか……? 私達の間に、縦横1・5メートルほどの鏡が出現しました。






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