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第6話 嫉妬する者(1)
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「殿下っ! リンナっ! 大変ですっ! 大変なのっ!!」
サーラと8匹が、ベッドで微笑み合っていた日の翌朝のことでした。王宮にある王太子の私室に、血相を変えて飛び込んだ者が居ました。
この少女は、ミント・ブラン。サーラの元義妹であり、婚約破棄にも一枚噛んでいた少女です。
ミントにとって元婚約者の女は、疎ましい義姉。
ミントにとってもうじき婚約者となる女は、仲の良い友人。
そのためミントは王太子ニオズとリンナに協力し、様々な嫌がらせを捏造していたのです。
「殿下と良い雰囲気になってたのに……。ミント、どうしたの?」
「お前でなければ、私刑に処していたところだぞ。一体どうしたんだ?」
「これ見て! ここっ! ここをご覧くださいっ!」
ミントはガラス製のテーブルに全国紙を広げ、鋭く指さします。彼女が指差した先にあるのは、《小さな村にある、1人の少女と8匹の猫が営む人気カフェ》の文字。カフェ、『ラング・ド・シャ』の記事でした。
「ペイオのカフェを切り盛りする、サーラ・ソリテールっ。これって、間違いなくアイツ! わたしの元愚姉なんですっ!」
「…………ああ、そのようだな。信じられない話だ」
「何もかも失ったのに、たった2か月でここまでなんて……。あの女は、ゴキブリ並みの生命力ね」
余裕綽々で家を出たものの、大失敗をして野垂れ死ぬ。そんな予想をしていた2人は、たまらず目を見開きました。
「折角全部奪って追い出せたのに、前よりも幸せになっちゃってるのっ! こんなの、許せないっ。納得できないっ。レイオン殿下、わたしに力を貸してくださいっ!」
学院では同級生達に慕われ、家内では使用人達に慕われる義姉。自分を常に『ブラン家のナンバー2』にしてしまうサーラを、ずっと憎んでいました。
承認欲求の塊であるミントに、常識は通用しません。彼女は今日も理不尽を振り撒き、ニオズへと身を乗り出しました。
「協力の礼に一度だけ願いを聞いてやる、そう言ってましたよねっ? 今、お願いをしますっ。アイツがチヤホヤされないようにしてくださいっ!」
「あ、ああ。そんな約束をしていたな。しかし、今は……」
「今はっ!? なんなんですかっ!?」
「ミント。婚約破棄に関して、陛下はまだ色々と疑っているの。だからアタシも、『自分のせいで迷惑をかけてしまったお詫び』として2週間に1回会うのがせいぜい。今は、あまり自由に動けないのよ」
国王ヴァイスは、真っ当な人間。サーラを『心優しき者』と評しており、『本当にそんな真似をしたのか?』と未だに疑問を感じていました。
そんな状況下でサーラに対する行動を起こせば、ますます疑われかねません。
「父上の疑が消えるまでは、待ってくれ。そのあとでなら――」
「それって、いつですかっ? 今月中ですかっ?」
「いっ、いくらなんでも早すぎる! 最低でも半年は――」
「半年!? そんなに待てませんっ! 無理ですっ!!」
再度言葉を遮り、手のひらをテーブルに叩きつけます。
そして、それから――。王太子ニオズとリンナは、ミントへの協力依頼を酷く後悔する羽目になるのでした。
サーラと8匹が、ベッドで微笑み合っていた日の翌朝のことでした。王宮にある王太子の私室に、血相を変えて飛び込んだ者が居ました。
この少女は、ミント・ブラン。サーラの元義妹であり、婚約破棄にも一枚噛んでいた少女です。
ミントにとって元婚約者の女は、疎ましい義姉。
ミントにとってもうじき婚約者となる女は、仲の良い友人。
そのためミントは王太子ニオズとリンナに協力し、様々な嫌がらせを捏造していたのです。
「殿下と良い雰囲気になってたのに……。ミント、どうしたの?」
「お前でなければ、私刑に処していたところだぞ。一体どうしたんだ?」
「これ見て! ここっ! ここをご覧くださいっ!」
ミントはガラス製のテーブルに全国紙を広げ、鋭く指さします。彼女が指差した先にあるのは、《小さな村にある、1人の少女と8匹の猫が営む人気カフェ》の文字。カフェ、『ラング・ド・シャ』の記事でした。
「ペイオのカフェを切り盛りする、サーラ・ソリテールっ。これって、間違いなくアイツ! わたしの元愚姉なんですっ!」
「…………ああ、そのようだな。信じられない話だ」
「何もかも失ったのに、たった2か月でここまでなんて……。あの女は、ゴキブリ並みの生命力ね」
余裕綽々で家を出たものの、大失敗をして野垂れ死ぬ。そんな予想をしていた2人は、たまらず目を見開きました。
「折角全部奪って追い出せたのに、前よりも幸せになっちゃってるのっ! こんなの、許せないっ。納得できないっ。レイオン殿下、わたしに力を貸してくださいっ!」
学院では同級生達に慕われ、家内では使用人達に慕われる義姉。自分を常に『ブラン家のナンバー2』にしてしまうサーラを、ずっと憎んでいました。
承認欲求の塊であるミントに、常識は通用しません。彼女は今日も理不尽を振り撒き、ニオズへと身を乗り出しました。
「協力の礼に一度だけ願いを聞いてやる、そう言ってましたよねっ? 今、お願いをしますっ。アイツがチヤホヤされないようにしてくださいっ!」
「あ、ああ。そんな約束をしていたな。しかし、今は……」
「今はっ!? なんなんですかっ!?」
「ミント。婚約破棄に関して、陛下はまだ色々と疑っているの。だからアタシも、『自分のせいで迷惑をかけてしまったお詫び』として2週間に1回会うのがせいぜい。今は、あまり自由に動けないのよ」
国王ヴァイスは、真っ当な人間。サーラを『心優しき者』と評しており、『本当にそんな真似をしたのか?』と未だに疑問を感じていました。
そんな状況下でサーラに対する行動を起こせば、ますます疑われかねません。
「父上の疑が消えるまでは、待ってくれ。そのあとでなら――」
「それって、いつですかっ? 今月中ですかっ?」
「いっ、いくらなんでも早すぎる! 最低でも半年は――」
「半年!? そんなに待てませんっ! 無理ですっ!!」
再度言葉を遮り、手のひらをテーブルに叩きつけます。
そして、それから――。王太子ニオズとリンナは、ミントへの協力依頼を酷く後悔する羽目になるのでした。
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