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第5話 初めての取材(3)
しおりを挟む「お待たせいたしました。苺のパンケーキサンドでございます」
ラウネスさんにお出ししたあと、カーチスさんの分の調理をスタート。
いつものように「はははっ。くるしゅうないっ。くるしゅうないっ!」相好を崩しているお顔を心に刻んで、材料を混ぜ混ぜ。ボウルに牛乳150ミリリットルやMサイズの卵1個、独自の配合でミックスさせた粉を混ぜ合わせ、バターを引いたフライパンに流し込む。
ただし、今回のものはサンド。クリームと苺を挟むタイプのもの。
そのため生地や焼き加減はサンド用で変えていて、焼きあがったあともやるべきことは変わる。フライパンから上げると粗熱取りを行い、その間にクリームを泡立ててる。そして充分な状態になったら苺と合わせて挟み、半分に切って出来上がり。
あたしにとって2番目に思い出深いメニューの、完成です!
「うむ、食むとしよう。酷似しているようでパンケーキ自体も違うようだが、はたして……」
半月状になっているサンドを手に取り、両目を閉じて味わうカーチスさん。
初めて食べる、パンケーキサンドは……。いかがですか……?
「………パンケーキ自体はふわっとしつつも、やや固め。主役でありながら引き立て役でもあれるよう、甘さと舌触りも変更させているのか。その『違い』がクリームと苺を絶妙に『立てて』いて……。アレに勝るとも劣らぬ味わいだ」
大きく頷いて、そのあとは黙々と。最後まで、一度も休むことなく食べ続けてくれた。
「ソリテールさん、美味しかったです! 常連さんっ、これが仰ってた『心』なのですねっ?」
「その通りだ。しかし、サーラよ。このメニューは些か、コーヒーや特製スフレとは違う一面も孕んでいるのだな」
高速で感想を記しているラウネスさんに向いていた瞳が、こちらに向いた。
流石は、カーチスさん。お気づきになられていたみたい。
「件の二つには『想い』に加えて懐かしさが載っており、これには更に貴様自身の色が載っている。恐らくこのメニューは、サーラ考案なのだろう?」
「えっ!? 常連さんはそこまで分かるんですかっ!? そっ、そうなんですかっ!?」
「はい、実はそうなんです。こちらは初めて、あたしが考えたものなんですよ」
お母様をビックリさせよう! そう思って作り始め、試行錯誤を繰り返して生み出したメニュー。この料理自体は以前からあるんだけど、材料の割合とか焼き方とかは全てオリジナルなんだよね。
「これはこれで、至極よいものだ。今宵の開拓は成功し、明日からは特製スフレパンケーキと交互にオーダーすることになりそうだ」
「おおおっ! 一択だった常連さんが揺らいだ! 常連一号さんっ、さっきの感想とこの事実も記事にさせてもらえませんかっ?」
「此度の発見は、貴様の手柄でもある。故に、構わんぞ。自由に使うがよい」
「ありがとうございますっ! それではこれより本部に戻り、全力で記事を仕上げたいと思いますっ。ソリテールさん、常連さんも、ご期待ください……っ!」
そうしてあたし達にとって初めての取材が終わり、その数日後、あたし達は、新聞の影響力を改めて思い知ることになります。
『新聞、読みましたよっ! 特製スフレパンケーキをお願いします!』
『常連さんも唸る一品だそうですねっ? 苺のパンケーキサンドでお願いします』
《小さな村にある、1人の少女と8匹の猫が営む人気カフェ》。そんなタイトルで始まった記事は大勢の目を引き、『ラング・ド・シャ』の知名度は桁外れに上昇したのです。
そこからはまさに、怒涛の日々で。日ごとにハイペースで来店人数が増え、なんとっ。オープンして35日目に、人気店の仲間入りを果たしたのでした!
「あの、『各地の名店紹介』でも――全国紙でも、紹介されちゃったよ。婚約の破棄と追放された時は、こうなるなんて思ってもみなかった。今でもまだ、信じられないや」
「「「「にゃ~。にゃ~っ」」」」
「「「「にゃぅ~っ。くるるっ!」」」」
「毎日忙しくお仕事をできて、みんなと幸せに暮らせる。ほんと、夢みたい」
人気店として認められた日の、夜。ベッドでみんなを抱き締めながら、笑う。
これからもずっと、こんな毎日が続く。そう信じて、笑ってたあたし。
―――この時はまだ、知らなかったのです――。
もうすぐ、夢みたいな『こんな毎日』が終わりを告げることを。
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