上 下
15 / 39

第5話 初めての取材(3)

しおりを挟む


「お待たせいたしました。苺のパンケーキサンドでございます」

 ラウネスさんにお出ししたあと、カーチスさんの分の調理をスタート。
 いつものように「はははっ。くるしゅうないっ。くるしゅうないっ!」相好を崩しているお顔を心に刻んで、材料を混ぜ混ぜ。ボウルに牛乳150ミリリットルやMサイズの卵1個、独自の配合でミックスさせた粉を混ぜ合わせ、バターを引いたフライパンに流し込む。

 ただし、今回のものはサンド。クリームと苺を挟むタイプのもの。

 そのため生地や焼き加減はサンド用で変えていて、焼きあがったあともやるべきことは変わる。フライパンから上げると粗熱取りを行い、その間にクリームを泡立ててる。そして充分な状態になったら苺と合わせて挟み、半分に切って出来上がり。
 あたしにとって2番目に思い出深いメニューの、完成です!

「うむ、食むとしよう。酷似しているようでパンケーキ自体も違うようだが、はたして……」

 半月状になっているサンドを手に取り、両目を閉じて味わうカーチスさん。
 初めて食べる、パンケーキサンドは……。いかがですか……?

「………パンケーキ自体はふわっとしつつも、やや固め。主役でありながら引き立て役でもあれるよう、甘さと舌触りも変更させているのか。その『違い』がクリームと苺を絶妙に『立てて』いて……。アレに勝るとも劣らぬ味わいだ」

 大きく頷いて、そのあとは黙々と。最後まで、一度も休むことなく食べ続けてくれた。

「ソリテールさん、美味しかったです! 常連さんっ、これが仰ってた『心』なのですねっ?」
「その通りだ。しかし、サーラよ。このメニューは些か、コーヒーや特製スフレとは違う一面も孕んでいるのだな」

 高速で感想を記しているラウネスさんに向いていた瞳が、こちらに向いた。
 流石は、カーチスさん。お気づきになられていたみたい。

「件の二つには『想い』に加えて懐かしさが載っており、これには更に貴様自身の色が載っている。恐らくこのメニューは、サーラ考案なのだろう?」
「えっ!? 常連さんはそこまで分かるんですかっ!? そっ、そうなんですかっ!?」
「はい、実はそうなんです。こちらは初めて、あたしが考えたものなんですよ」

 お母様をビックリさせよう! そう思って作り始め、試行錯誤を繰り返して生み出したメニュー。この料理自体は以前からあるんだけど、材料の割合とか焼き方とかは全てオリジナルなんだよね。

「これはこれで、至極よいものだ。今宵の開拓は成功し、明日からは特製スフレパンケーキと交互にオーダーすることになりそうだ」
「おおおっ! 一択だった常連さんが揺らいだ! 常連一号さんっ、さっきの感想とこの事実も記事にさせてもらえませんかっ?」
「此度の発見は、貴様の手柄でもある。故に、構わんぞ。自由に使うがよい」
「ありがとうございますっ! それではこれより本部に戻り、全力で記事を仕上げたいと思いますっ。ソリテールさん、常連さんも、ご期待ください……っ!」

 そうしてあたし達にとって初めての取材が終わり、その数日後、あたし達は、新聞の影響力を改めて思い知ることになります。


『新聞、読みましたよっ! 特製スフレパンケーキをお願いします!』
『常連さんも唸る一品だそうですねっ? 苺のパンケーキサンドでお願いします』


《小さな村にある、1人の少女と8匹の猫が営む人気カフェ》。そんなタイトルで始まった記事は大勢の目を引き、『ラング・ド・シャ』の知名度は桁外れに上昇したのです。
 そこからはまさに、怒涛の日々で。日ごとにハイペースで来店人数が増え、なんとっ。オープンして35日目に、人気店の仲間入りを果たしたのでした!

「あの、『各地の名店紹介』でも――全国紙でも、紹介されちゃったよ。婚約の破棄と追放された時は、こうなるなんて思ってもみなかった。今でもまだ、信じられないや」
「「「「にゃ~。にゃ~っ」」」」
「「「「にゃぅ~っ。くるるっ!」」」」
「毎日忙しくお仕事をできて、みんなと幸せに暮らせる。ほんと、夢みたい」

 人気店として認められた日の、夜。ベッドでみんなを抱き締めながら、笑う。
 これからもずっと、こんな毎日が続く。そう信じて、笑ってたあたし。

 ―――この時はまだ、知らなかったのです――。

 もうすぐ、夢みたいな『こんな毎日』が終わりを告げることを。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...