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第2話 カフェタイムの再来店(1)

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「いらっしゃいませっ。『ラング・ド・シャ』へようこそっ」
「「「「「「「「にゃ~っ!」」」」」」」」
「今日も、邪魔をするぞ。席は昨日と同じく、ここにしておこう」

 翌日の、午後2時7分。あの美男さんが、今日初めてのお客様として来店してくださった。

 そう。
 今日、初めて。

 前の日は街で大盛況だったのに、0……。沢山の人が絶対にすぐ行くよって言ってくれたのに、0……。
 商売に関するショックは、義妹達からのイジワル耐性は適用されなくって……。疑心暗鬼になりかけていたので、約束を守ってもらえて嬉しいです……!

(……此度の来訪は、カフェタイム外になると想定していたのだがな。俺としては好都合なのだが、ふむ。試食後の不人気は解せんな)
「??? お客様?」
「単なる独語だ。……うむ。うむ……っ。貴様らは相変わらず、他の猫とは一味違う。なかなかに愛くるしいな」

 美男さんはみんなを順番に撫でて座り、左右の肩に2匹ずつ、左右の膝に2匹ずつ乗せて、メニューを広げる。
 この人……っ。乗せ方を研究してきてる……っっ。

「メニューは、相変わらず豊富だな。この店の自慢は、ふむ。特製スフレパンケーキか」
((ええそうなんですっ! 美味しいですよっ、特製スフレパンケーキっ!))

 お母様が一番得意とした、あたしの大好物。フワフワでシュワっとするパンケーキを、キャラメルソースとホイップクリームでいただく至高の一皿。
 イラストを見てると、食べたくなりませんかっ? 今ならなんとオープン記念で、200G引きの600Gですよっ?

「…………店主よ。昨夜はこれを、民に提供したのだったな?」
「はっ、はいそうです。ご存じということは、もしかして。お客様は、あの周辺の住人さんなのですか?」
「そのようなものだ。…………現況を解明するのは、これが適当か。店主よ、特製スフレパンケーキを一つ頼む」
「特製スフレパンケーキですねっ? 畏まりましたっ!」

 流石ですっ。お目が高いですっ。
 初めてスイーツ系の注文で舞い上がったあたしは、心の中で拍手とお辞儀をしながらキッチンスペースに入る。

((まずは、しっかりと手を洗って……。次は、食べてくれる人の姿を焼き付ける))

「キジよ。貴様は、俺の右肩に座りたそうにしているな? よいぞ。その間ミケは、左の膝に来るといい」

「ははは。はははははっ。耐性の塊でもあるこの俺を、無意識的に魅了してしまうとはな。純真無垢な貴様らの『スリスリ』は、ほんに恐ろしい」

 食べてくださる人は、別人の如き喜色満面のを浮かべて時々意味不明なことを言っている。
 ……やっぱり、色々と気になるけど……。それは忘れて調理に集中っ。

 ボウルに卵黄や牛乳を入れて泡立て器で混ぜて、そこに薄力粉達を投入。丁寧に振るい入れたら更に混ぜ合わせ、もう1つボウルを使って卵白を混ぜ混ぜ。
 しっかり泡立てたらボウルその1にその2の『3分の1』程度を加えて混ぜ、そのあと残りを加えて『さっくり』と混ぜる。
 あとは無塩バターを引いたフライパンに生地を流し込み、表面を焼いた後、2分半~3分間蒸し焼きにしたら出来上がり。お皿に2つのパンケーキを盛りつけ、同時進行で用意しておいたホイップクリームとキャラメルソースをたっぷり添えたら完成ですっ。

「お客様、お待たせいたしました。当店自慢の一品、『特製スフレパンケーキ』でございます」
「独りであの手際、なかなかのものだったぞ。ところで――。この店は全てを、注文してから作るのだな」
「キャラメルソースなど準備に多くの時間がかかるもの以外は、オーダーを受けて調理致します。それが母から教わった、自分の料理に対するポリシーですので」
「ふむ。効率や損得ではなく、意思を貫くか。ますます面白いではないか」

 美男さんは僅かに口角を吊り上げ、そんな口にパンケーキが吸い込まれてゆく。
 ドキドキ、ドキドキ。必然的に、心音が加速する。
 昨日食べてくれた人達は、美味しいと言ってくれたけど……。この人は、どうなんだろう……?













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