48 / 56
エピローグ(上)
しおりを挟む「お母様、お久しぶりです。今日は3つ、御報告があります」
この世界から魔物が完全に消滅してから、3日後。宰相の正体などを各国の上層部の方にお伝えするなどして、ようやく落ち着けた日のお昼過ぎ。私とマティアス君は、シャイナ家の墓地――お母様のお墓を訪れていました。
お母様はマーフェル家の人間ですが、遺言によって生家の墓地に入りました。昔はその理由が分からず『なぜ?』と感じていましたが、今ではそれが一番の幸せだと確信できます。
「1つ目は、改めてのものになります」
「フィル・シャイナ様。こちらで自己を紹介するのは、初めてですね。自分は、マティアス・エローと申します」
「マティアス君は、私の為に世界を救ってくれた人なんです。そのおかげで私は今、幸せに過ごせているんですよ」
暴力を振るわれる事は、もうありません。早朝の起床と食事の用意を命じられる事も、もうありません。
起きてご飯を作る際は自分の意思で、私へと伸びてくる手は優しいもの。あの頃とは真逆の日々。
右手で墓石に触れながら、毎日の暮らしを報告しました。
「次は、2つ目ですね。フィルお母様。今の私は、イリス・シャイナなんです。本日正式に、シャイナ家の人間になりました」
4日前に書類を用意して、今日の午前中に当主継承など全ての作業が終わりました。
初めての事ばかりでしたがマティアス君が支えてくれて、驚くくらいスムーズに進んだんですよ。本当に、いつもお世話になっています。
「……私はお父様とお母様の子どもですが、親はお母様と思っていますので。あの人の影がない、お母様の姓を名乗れて幸せです」
今度は石に刻まれたお母様のお名前を指でなぞりながら、数時間前の出来事を報告しました。
「そして3つ目、最後の御報告になります。…………お母様」
そこで一度止めて、マティアス君の左手を握ります。そしてもう片方の手を伸ばして、
「今日、婚約リングをいただきました」
薬指にはまった、ダイヤモンドの指輪をお見せしました。
「私達は、5か月後に――私が結婚をできる年齢になったらに、結婚をする事になりました。ですのでその第一歩として、いただいたのですよ」
この国では結ばれるには、婚約、結婚という流れが必要になります。そのため自由に動けるようになってからマティアス君が選んでくれて、今日はめてもらいました。
「本来は出会ったその日に渡すべきだったのですが、悪い芽を摘んでいて遅くなってしまいました。……フィル様。今はようやくゆっくりと、2人の時間を過ごせるようになりました。これからは今迄以上に、イリスに幸せな人生をもたらすとお約束します。ですのでどうか、ご安心くださいませ」
墓石の前で目を瞑り、胸に手を当て深く頭を下げてくれたマティアス君。そうして彼の頭が上がって両目が開くと、っっ!
不思議な出来事が、起きました。
0
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
前世で薬師だったことを思い出したので、今度こそ愛する人を救います
柚木ゆず
恋愛
公爵令嬢ソフィアの婚約者である王太子アシルは、原因不明の体調不良によって突然倒れてしまいます。
日に日に衰弱していっていて、このままではアシルは死んでしまう――。なんとかして助けたい――。
そんな想いがソフィアの前世の記憶を蘇らせ、自分はかつてフィアナという有名な薬師だったことに気が付きます。
早速ソフィアは前世の記憶を使い、大切な人を救おうとするのですが――。薬師の知識を取り戻したことにより、やがてソフィアはあることに気付くのでした。
誰にも愛されず生涯を終えると思っていた冷遇王女ですが、暗殺にきた侯爵様が私を救ってくれるようです。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「――はぁ? あの無能なニーナ姫をこの城から追い出す?」
メイド姿に扮し、王城に忍び込んでいたニーナは、偶然にも自身の暗殺計画を知ってしまう。
依頼人は継母である現王妃。そしてその方法は、悪人の暗殺を代々営むシードル侯爵家に依頼することだった。
「それならば、本当に私が暗殺に相応しい人物か見極めてもらいましょう」
ニーナは敢えてその依頼を飲んだ。
暗殺者は恐ろしいけれど、この国を良くするため、自分の手を血に染める義理堅い人物ならば助けてくれるかもしれない。
しかし目の前に現れたのは、優しそうな若い紳士だった。
自身を殺すためにやってきたはずの彼は、誰よりも優しく接してくれる。一緒に過ごしているうち、次第にニーナは彼に心惹かれていき――
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました
ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。
内容そのまんまのタイトルです(笑
「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。
「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。
「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。
其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。
そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。
困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。
ご都合主義のゆるゆる設定です。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる