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第14話(1)

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「あのね、マティアス君。10年前にこの場所で、お母様と一緒に過ごしたんだよ」

 パーティーの日から、2日後。私は清々しい空気の中で、ランドラの森の木漏れ日を感じていました。
 ずっと来れなくなっていても、忘れません。忘れるはずがありません。あの日私達はここにある大きな切り株に腰をかけ、幸せな時間を過ごしました。

「あの時は、お父様が数日間出掛けていて――きっとあの人のところに行っていて、2人で来たの。鳥の鳴き声を聞きながらお喋りしたり、鳥さんがやってきて囲まれたり。素敵な時間だったの」
「イリスの表情を見ていたら、それがよく分かるよ。……あの日聞いた、願い。最後の一つが叶って、俺も嬉しいよ」

 今から7年前にベンチで口にした、私が願う事。それが、ここに来る、でした。
 マティアス君は……。このために――このためにも、動いてくれていたんですよね。

「ありがとうございます、マティアス君。また一つ、夢が叶いました」
「どういたしまして。今はまだ午前10時過ぎだし、この森は空(す)いている。好きなだけ自由にゆっくりできるから、思う存分懐かしんでね」

 ここにあるのは自然のみで、景色もそこまで良くはなく見どころはほぼありません。そのため皆さんは解禁された他のスポットに行かれているようで、6~7人の方を見掛けただけとなっています。
 少なくとも数日間は穴場となっているので、この場所を独占できてしまうんですよね。

「うん、今日はのんびりさせてもらうよ。……お母様、お久しぶりです」

 ここにあるお母様との記憶に挨拶をして、切り株をそっと撫でる。そうしたらあの日の思い出達が改めてふわっと浮かび上がってきて、

『お母さんわね、イリスとお喋りをしている時が一番楽しいの。だから今は、とっても幸せ』
『おかあさまっ、わたしもっ。とってもしあわせ~っ』

『ねえイリス。鳥さん達が素敵なお歌を聴かせてくれたから、一緒にお返しをしましょっか』
『はーいっ』
『『せーのっ。~♪♪♪』』

 お母様の笑顔や歌声に、優しく包まれました。
 だから、なのだと思います。私は無意識的にあの日のメロディーを口ずさんでいて、そうすると鳥さんが集まってきてくれました。

「みんなでイリスを囲んで、楽しそうに鳴いてる。イリスは大人気だね」
「そういうマティアス君の肩にも、2匹とまってる。マティアス君も、人気者だね」
「「「「「チチチチチっ」」」」」

 笑い合っていると皆さんも羽をパタパタと動かして、今度はマティアス君、それと鳥さんも一緒になって歌を歌います。

「「~♪♪♪」」
「「「「「チチチチチチッ」」」」」

 そうやって私は懐かしさと新しさのある時間を過ごし、暫くすると遠くで『ゴーンゴーン』と鐘が鳴りました。
 これは、正午の合図です。ついつい何曲も歌ってお腹も空きましたし、お昼ご飯にしましょう。

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