39 / 56
第14話(1)
しおりを挟む「あのね、マティアス君。10年前にこの場所で、お母様と一緒に過ごしたんだよ」
パーティーの日から、2日後。私は清々しい空気の中で、ランドラの森の木漏れ日を感じていました。
ずっと来れなくなっていても、忘れません。忘れるはずがありません。あの日私達はここにある大きな切り株に腰をかけ、幸せな時間を過ごしました。
「あの時は、お父様が数日間出掛けていて――きっとあの人のところに行っていて、2人で来たの。鳥の鳴き声を聞きながらお喋りしたり、鳥さんがやってきて囲まれたり。素敵な時間だったの」
「イリスの表情を見ていたら、それがよく分かるよ。……あの日聞いた、願い。最後の一つが叶って、俺も嬉しいよ」
今から7年前にベンチで口にした、私が願う事。それが、ここに来る、でした。
マティアス君は……。このために――このためにも、動いてくれていたんですよね。
「ありがとうございます、マティアス君。また一つ、夢が叶いました」
「どういたしまして。今はまだ午前10時過ぎだし、この森は空(す)いている。好きなだけ自由にゆっくりできるから、思う存分懐かしんでね」
ここにあるのは自然のみで、景色もそこまで良くはなく見どころはほぼありません。そのため皆さんは解禁された他のスポットに行かれているようで、6~7人の方を見掛けただけとなっています。
少なくとも数日間は穴場となっているので、この場所を独占できてしまうんですよね。
「うん、今日はのんびりさせてもらうよ。……お母様、お久しぶりです」
ここにあるお母様との記憶に挨拶をして、切り株をそっと撫でる。そうしたらあの日の思い出達が改めてふわっと浮かび上がってきて、
『お母さんわね、イリスとお喋りをしている時が一番楽しいの。だから今は、とっても幸せ』
『おかあさまっ、わたしもっ。とってもしあわせ~っ』
『ねえイリス。鳥さん達が素敵なお歌を聴かせてくれたから、一緒にお返しをしましょっか』
『はーいっ』
『『せーのっ。~♪♪♪』』
お母様の笑顔や歌声に、優しく包まれました。
だから、なのだと思います。私は無意識的にあの日のメロディーを口ずさんでいて、そうすると鳥さんが集まってきてくれました。
「みんなでイリスを囲んで、楽しそうに鳴いてる。イリスは大人気だね」
「そういうマティアス君の肩にも、2匹とまってる。マティアス君も、人気者だね」
「「「「「チチチチチっ」」」」」
笑い合っていると皆さんも羽をパタパタと動かして、今度はマティアス君、それと鳥さんも一緒になって歌を歌います。
「「~♪♪♪」」
「「「「「チチチチチチッ」」」」」
そうやって私は懐かしさと新しさのある時間を過ごし、暫くすると遠くで『ゴーンゴーン』と鐘が鳴りました。
これは、正午の合図です。ついつい何曲も歌ってお腹も空きましたし、お昼ご飯にしましょう。
1
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
冤罪による婚約破棄を迫られた令嬢ですが、私の前世は老練の弁護士です
知見夜空
恋愛
生徒たちの前で婚約者に冤罪による婚約破棄をされた瞬間、伯爵令嬢のソフィ―・テーミスは前世を思い出した。
それは冤罪専門の老弁護士だったこと。
婚約者のバニティ君は気弱な彼女を一方的に糾弾して黙らせるつもりだったらしいが、私が目覚めたからにはそうはさせない。
見た目は令嬢。頭脳はおじ様になった主人公の弁論が冴え渡る!
最後にヒロインのひたむきな愛情も報われる逆転に次ぐ逆転の新感覚・学内裁判ラブコメディ(このお話は小説家になろうにも投稿しています)。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
(完)お姉様、婚約者を取り替えて?ーあんなガリガリの幽霊みたいな男は嫌です(全10話)
青空一夏
恋愛
妹は人のものが常に羨ましく盗りたいタイプ。今回は婚約者で理由は、
「私の婚約者は幽霊みたいに青ざめた顔のガリガリのゾンビみたい! あんな人は嫌よ! いくら領地経営の手腕があって大金持ちでも絶対にいや!」
だそうだ。
一方、私の婚約者は大金持ちではないが、なかなかの美男子だった。
「あのガリガリゾンビよりお姉様の婚約者のほうが私にぴったりよ! 美男美女は大昔から皆に祝福されるのよ?」と言う妹。
両親は妹に甘く私に、
「お姉ちゃんなのだから、交換してあげなさい」と言った。
私の婚約者は「可愛い妹のほうが嬉しい」と言った。妹は私より綺麗で可愛い。
私は言われるまま妹の婚約者に嫁いだ。彼には秘密があって……
魔法ありの世界で魔女様が最初だけ出演します。
⸜🌻⸝姉の夫を羨ましがり、悪巧みをしかけようとする妹の自業自得を描いた物語。とことん、性格の悪い妹に胸くそ注意です。ざまぁ要素ありですが、残酷ではありません。
タグはあとから追加するかもしれません。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる