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第2話
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「あっ。マティアス君、お疲れ様でした」
「ありがとう。待たせてごめんね、イリス」
パレードや名誉称号であり特別な姓である『英雄』の授与式などがあって、あれからおよそ2時間後。式典が終わるとすぐに来てくれて、マティアス君は申し訳なさそうに頭を下げてくれました。
「ううん、全然待ってないよ。視線の先には、あのマティアス君がいるんだもん。遠くから姿を見ているだけでも、嬉しくて楽しかった」
7年前に偶然出会って、理由が分からないままお別れになってしまった人。私にとって、とても大切な人。
初恋の、人。
そんな男の子が同じ場所にいてくれるから、2時間なんてあっという間でした。
「そっか、じゃあ行こうか。馬車まで案内するね」
「うん。よろしくお願いします」
傍にいたミンラの侍女とアナイスの侍女に会釈をした後、差し出された手を取って歩き出す。
この人達がここで控えていたのは、私のためじゃない。周囲からの非難を少しでも和らげるため。
『マーフェル家といえば、仲睦まじい一家として有名だったのに……』
『あれは全部、嘘だったのね……。最低だわ……っ』
『血がつながらないからと、イジメるなんて。人として終わっていますわ』
マティアス君の言葉によって真実が認知され、評判が180度変わってしまいました。そのため2人は、どうにか否定しようとして――マティアス君の勘違いだと思わせるために、侍女を複数配置したり、
『お姉ちゃんっ。あっちに、アイスクリームのお店が出てるんだって! 一緒に食べようよっ』
『いいわね、アナイス! いつものように、3人で仲良く食べましょっ』
こういうことをしたりして、必死に取り繕っていたのです。
「「英雄マティアス・エロー様。イリス様を、よろしくお願い致します」」
「俺は貴方がたの主とは違って、陰湿かつ鬼畜な真似はしませんよ。……人目を気にして隠れているご主人達に、この2点をよく伝えておいてください。『二度と目の前に現れるな』『お前達がこれまでに行った事は、もうじき全てがその身に返ってくる』、とね」
マティアス君は一度止まって穏やかさに口元を緩め、7時の方角を一瞥してから再び進み始めます。そして、手入れが行き届いている石畳の上をしばらく歩くと――王家の紋章が刻まれた、豪華な馬車が停まっていました。
「国王陛下の強い希望で、今日の移動はコレになるんだ。仰々しくてごめんね」
彼はぐるっと見回し苦笑いをして、初老の御者さんと一言二言会話をする。それが終わると今度はスッと手を伸ばして、エスコートをしてくれました。
「イリス、手をどうぞ。足元に気を付けてね」
「う、うん。……………………」
「? 急に黙って、どうしたんだい?」
「マティアス君は中身も王子様で、見惚れちゃってました。どうもありがとう」
そうして私達は向かい合わせで乗り込み、馬車は動き出す。すると、少ししたら本当に偶然――。広場の隅で青褪めている2人の家族が見えて、再びあの疑問が気になり始めるようになりました。
「あ、あの。マティアス君」
「ああ、分かっているよ。『あとで』、と約束したもんね。この時間を利用して、まずはその部分を説明するよ」
ずっと隠していた私が受けていた待遇を、どうして知っているのか。マティアス君は声のボリュームを落とし、語り始めてくれたのでした。
「ありがとう。待たせてごめんね、イリス」
パレードや名誉称号であり特別な姓である『英雄』の授与式などがあって、あれからおよそ2時間後。式典が終わるとすぐに来てくれて、マティアス君は申し訳なさそうに頭を下げてくれました。
「ううん、全然待ってないよ。視線の先には、あのマティアス君がいるんだもん。遠くから姿を見ているだけでも、嬉しくて楽しかった」
7年前に偶然出会って、理由が分からないままお別れになってしまった人。私にとって、とても大切な人。
初恋の、人。
そんな男の子が同じ場所にいてくれるから、2時間なんてあっという間でした。
「そっか、じゃあ行こうか。馬車まで案内するね」
「うん。よろしくお願いします」
傍にいたミンラの侍女とアナイスの侍女に会釈をした後、差し出された手を取って歩き出す。
この人達がここで控えていたのは、私のためじゃない。周囲からの非難を少しでも和らげるため。
『マーフェル家といえば、仲睦まじい一家として有名だったのに……』
『あれは全部、嘘だったのね……。最低だわ……っ』
『血がつながらないからと、イジメるなんて。人として終わっていますわ』
マティアス君の言葉によって真実が認知され、評判が180度変わってしまいました。そのため2人は、どうにか否定しようとして――マティアス君の勘違いだと思わせるために、侍女を複数配置したり、
『お姉ちゃんっ。あっちに、アイスクリームのお店が出てるんだって! 一緒に食べようよっ』
『いいわね、アナイス! いつものように、3人で仲良く食べましょっ』
こういうことをしたりして、必死に取り繕っていたのです。
「「英雄マティアス・エロー様。イリス様を、よろしくお願い致します」」
「俺は貴方がたの主とは違って、陰湿かつ鬼畜な真似はしませんよ。……人目を気にして隠れているご主人達に、この2点をよく伝えておいてください。『二度と目の前に現れるな』『お前達がこれまでに行った事は、もうじき全てがその身に返ってくる』、とね」
マティアス君は一度止まって穏やかさに口元を緩め、7時の方角を一瞥してから再び進み始めます。そして、手入れが行き届いている石畳の上をしばらく歩くと――王家の紋章が刻まれた、豪華な馬車が停まっていました。
「国王陛下の強い希望で、今日の移動はコレになるんだ。仰々しくてごめんね」
彼はぐるっと見回し苦笑いをして、初老の御者さんと一言二言会話をする。それが終わると今度はスッと手を伸ばして、エスコートをしてくれました。
「イリス、手をどうぞ。足元に気を付けてね」
「う、うん。……………………」
「? 急に黙って、どうしたんだい?」
「マティアス君は中身も王子様で、見惚れちゃってました。どうもありがとう」
そうして私達は向かい合わせで乗り込み、馬車は動き出す。すると、少ししたら本当に偶然――。広場の隅で青褪めている2人の家族が見えて、再びあの疑問が気になり始めるようになりました。
「あ、あの。マティアス君」
「ああ、分かっているよ。『あとで』、と約束したもんね。この時間を利用して、まずはその部分を説明するよ」
ずっと隠していた私が受けていた待遇を、どうして知っているのか。マティアス君は声のボリュームを落とし、語り始めてくれたのでした。
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