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第20話 聖女たちのその後 シュザンヌ視点(2)

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「今でも、あの時の手紙を覚えているよ。聖女になって孤児院や病院を頻繁に訪ねるようになって、お土産を持っていったらもっと喜んでもらえるかな? と思って作るようになったんだよね?」
「はい、そうなんです。そちらが切っ掛けでした」

 買っていったものだと恐縮されてしまいますし、手作りだとわたし自身の想いを込められれます。そういった理由でお菓子作りをするようになって、始めたばかりの頃は上手くできないこともあったのですが、数を重ねていくうちに上達していきました。

「皆さんが笑顔になってくれたらわたしも嬉しくなって、もっと食べてもらいたくなってしまいまして。自然とクオリティーが上がっていって、レパートリーも増えました」
「ふふ。シュザンヌらしい理由だね」
「どんな反応をしてくれるのかな? 喜んでもらえるといいな。いつもそんなことを考えながら作っていて、そのたびに、必ずもう一つ頭の中に浮かぶことがありました。『クロヴィスさんにも食べてもらいたいな』、です」

 大切な、大好きな方に、お渡ししたい。できることならお手紙に書かれていたお気に入りの場所で、一緒に食べてもみたい。この胸の中にはずっとそんな思いがあり、でも、距離を始めとした複数の理由で後者はもちろん前者さえも実現は叶いませんでした。

「以前から叶えたかったことが、今度こそふたつ同時に叶えられます。……どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとう。いただきます」

 クロヴィスさんはまるで宝石を扱うかのようにクッキーを受け取ってくださり、パクリとお口に含まれました。
 今回ご用意させていただいたのは、プレーンタイプのクッキー。お味は、いかがでしょうか……?

「とっても美味しいよ。しっとりした食感と、鼻孔をくすぐるバターの香りが好き。本当に美味しいよ」

 何度か租借をすると、ウィンクと優しい微笑みが返ってきました。
 ……よかった。気に入っていただけたみたいです。

「こっちも気になる。いただくね」
「は、はいっ。どうぞ」

 お次は、フィナンシェです。
 こちらは――

「アーモンドの風味とバターのコク、相性がすごくいい。やさしいくちどけも僕好みで、こっちも本当に美味しいよ」

 ――こちらも同じように相好を崩してくださり、高い評価をいただきました。

「ランチを食べたあとだけど、美味しいからもっと食べたくなる。いくらでもいけてしまうよ」
「嬉しいです……! たくさんご用意していますので、よろしければどうぞ」
「ありがとう。じゃあ次は、一緒に食べよう」
「はいっ!」

 クロヴィスさんが取ってくださったクッキーとフィナンシェを受け取り、同じタイミングで口にします。
 食べ物は、『一緒に食べる人』もお味に大きく関わってくるもの。完成した際にお味見をしていますが、もちろん、その時よりも遥かに美味しく感じます。

「……おいしい……!」
「そうだね、美味しい。ありがとうね、シュザンヌ」
「こちらこそ、ありがとうございます。幸せです……!」

 ポカポカとした木漏れ日と、そよ風にゆったりと揺られる美しい緑と、『ラークエル鳥(どり)』さんのお歌。素敵な環境の中で特別な人と過ごす時間は、言葉では表しきれないほどに心が満たされます。
 わたしは――クロヴィスさんも終始笑顔で幸せな時間を過ごし、そんな『時』に2時間以上浸って。たっぷり幸福を満喫したわたし達は、懐中時計が午後3時を示すのを合図にして、立ち上がったのでした。

「シュザンヌ、時間が来たみたいだね」
「はい。出掛けて参ります」
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