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第2話 それならば シュザンヌ視点

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((……そう、だったのですね))

 わたしと比較されるのが腹立たしかったこと――。わたしが佐々岡様を利用して評判を上げているのが許せなかったこと――。などなど。
 怒りで身体を震わせながら発せられた言葉を聞き、わたしはようやく理解をしました。佐々岡様の本質を。

((あの日以降殆どお会いしなかったので、気付きませんでした。この方は、このような性質をお持ちなのですね))

 偉大な力を持っている人間は、褒め称えられないといけない。誰にも文句を言う資格はなくて、最大限の敬意を払うべきだ。
 そう思われていて――。
 先程仰っていた『周囲に対して当然の主張をしただけなのに嫌な目に遭った』というのも、間違い。なにを主張されたのかは分かりませんが、ご自身に100パーセント非があるのでしょうね。

((しかも……。殿下を骨抜きにしていらっしゃるのも初耳でした))

 今やすっかり、アントナン殿下は佐々岡様の操り人形です。その様子ですと神殿長様もあちら側・・・ですから何を言っても無意味で、解任が覆ることはないでしょう。
 ……それならば、仕方がありませんね。

「ふふ、どう足掻いても無駄だと理解したみたいね。そう。アンタの解任は決定事項で、聖女に関する一切の権利資格を失うのよ……!! 聖女としてチヤホヤされなくなっちゃうだなんて、悔しいでしょう? 『聖女ならでは』、がなくなっちゃって悔しいわよねぇ?」
「いえ、悔しくはありませんよ。わたしは3年前まで――聖女となるまでは裕福ではない男爵令嬢として生きていて、聖女ではない生活の方が長いんです。ですので当時の感覚が今なお沁みついていまして、『ならでは』は元々いただいてはおらず、失う影響はありませんよ」

 食事や自室なども豪華なものが合わず、当時と同じ水準にしてもらっていました。聖女の仕事をできなくなること以外は、変わらないんですよね。

((……いえ、違いますね))

 聖女を解任されたらわたしは再び男爵令嬢となり、モファクーナ男爵邸に戻ることになります。
 そうなると、あの方達は……。これまでのように、迎え入れてはくれないでしょうね。

((ですので、仕方ありません――いえ、それでいいのかもしれません。この機会に――))
「っっ! ホントは悔しくてたまらないくせに、余裕ぶって……!! どこまでもムカつく女ね……!! 殿下っ!!」
「ああ、分かっているよ。……シュザンヌ、お前はもうこの場にいる資格を持っていない。特別に馬車を用意してやったから、それに乗って消えろ。今すぐにな」
「……承知いたしました。失礼致します」

 心配なのは聖女の務めですが、聖女の座を独占できたのならば佐々岡様も真剣に取り組んでくださることでしょう。
 ですのでわたしは腰を深く折り曲げて挨拶を行い、荷物を纏めて馬車に乗り込み――


 天気予報で表すと、雷雨。大変なことが待っているであろう実家へと、3年ぶりに戻ったのでした。




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