クローンだった私と、兄

柚木ゆず

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「は、はるか……? そんなものを持ってきて、どうするんだい……?」
「決まってるでしょ。自分の心臓に刺すのよ」

 私は包丁を逆手で持ち、いつでも突き刺せる状態にする。

「どっ、どうしたの春香っ!! なにがあったんだっ!?」
「……………………私、知っちゃったんだよ。自分がクローンだってね」

 そう告げると、佐々木夏樹の表情が激変。瞬く間に青ざめたものになった。

「偶然、お父さんとお母さん――と思っていた二人のクローゼットが雪崩を起こして、片付けていたら遺影と日記帳を見つけたの。私、頭がこんがらがっちゃった」
「……はる、か……」
「だってこの記憶もこの身体も、自分のものじゃなかったんだもん。誰だってそうなるよね? ……だけど一番ショックだったのは、アンタに裏切られたこと。アンタから向けられていたもの全てがウソだったことが、一番辛かったわ」

 ずっと二人三脚で暮らしてきた、唯一の家族。誰よりも大切だった人に裏切られた事実が、何より痛かった。

「……アンタが親切にしてくれるのは、私が『佐々木春香』だから……。妹と同じ顔や声で笑ってくれるから……。だったらそんなヤツが目の前で死んだら、悲しいよね?」
「春香……っ。待ってっっ! 僕は――」
「うん、分かってる。これから出てくるのは、言い訳だって分かってる。二度も死んだところを見たくないから、必死になるよね」

 珍しく狼狽えている佐々木夏樹に対し、口元を緩めてプッと嗤う。
 そうそう。それそれ。最期に、そういうのを見たかったんだよね。

「私で遊んでくれたお礼に、最高の光景を焼き付けてあげる。愛した妹と同じ姿の女が死ぬ様子を、楽しんでね」
「……春香……。少しだけ、時間をください」
「嫌だよ。だってこんな人生、少しでも早く終わらせたいんだもん。絶対に嫌」
「…………お願い、春香。2分でいいから、僕に時間をください」

 急に佐々木夏樹の顔から動揺が消えて、私の目を真っすぐ見つめてきた。
 どう、して? どうして突然、慌てなくなったの?

「お願い、します。2分だけ、僕に時間をください」
「…………………………いいよ。2分だけ、自殺を待ってあげる」

 こんな状態で死んでも、大きなショックは与えられない。そこで私は首を縦に振り、それを見た佐々木夏樹は両親だった二人の部屋に入っていった。

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