クローンだった私と、兄

柚木ゆず

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「え……。どういう、こと……? 私は今、中学1年生なのに……。どう、なってるの……?」

 自分の遺影を凝視しながら、何度も何度も目を瞬かせる。
 写真の中の私は小学生で、ここにいる私は中学生。この時に死んでいるのなら、小学校を卒業できていないし中学校に入学できない。
 でも私は、卒業式も入学式も済ませている。……どういう、こと……?

「お父さんとお母さんの、イタズラ……。は、ないよね……」

 こんなの、イタズラに収まるレベルじゃない。その可能性は、ない。

「じゃ、じゃあ、どうして……? どうしてこんなものがここに――ぁっ。日記帳が、ある」

 動揺していて気付かなかったけど、遺影の下に二人の日記帳があった。
 これを、読めば……。きっと、全て分かる……。

「今は、プライバシーとか言ってる場合じゃない……。お父さんお母さん……。読ませて、もらうよ……」

 緑色のカバーがついたものを恐る恐る手に取り、怖々開いてみる。そうして私はその中にある膨大な量の文字を読み、絶望的な後悔をする事になった。


 こんなもの、開かなければよかった――。
 ううん、そうじゃない――。
 大きな音がしても、気にしなければよかった――。


 どうしてそんなことを、強く強く思っているのか。どうして、時間が巻き戻せたらと心から願っているのか。
 その理由は、知ってしまったから。

 私は。
 この私は。
 佐々木春香だけど、佐々木春香じゃない。
 ここにいる私は、佐々木春香のクローンだったのだと。

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