催眠探偵術師のミク

柚木ゆず

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6 うごき(1)

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「ふう。掃除って、結構体力使うのね」

 4人で行っていた掃除が終わり、5時間目の授業が始まる。
 秘書になりすましている真希は授業に参加できず、この時間は丘奈弓に関する調査もないため、体育館の裏で暇を潰していました。

「汗もかいていて、シャワーを浴びたいけど……ここではムリよねぇ。さてと、あの子たちの授業が終わるまで何をしようかしら?」

 図書室とコンピューター室と教員用の休憩室は自由に使ってもいい、そう学園側から言われていました。そのため真希は、どこで時間を潰そうか考え始めて――

「あ、居た居た。絵墨さんさんっ」

 ――図書室に向かおうとしていると、やせ型の男性が走ってきました。
 彼の名前は、氷川智成(ひかわともなり)。英語を担当している、この学園の教師です。

「あら先生。わざわざなんのご用でしょうか?」
「自主清掃のお手伝い、ありがとうございました。それで…………お疲れだと思い、こんなものをお持ちしました」

 いつも自信なさげにしている、智成。彼はオドオドと口を動かして、背中側に隠していた500ミリのペットボトルを差し出しました。

「今日は暑いので、熱中症になってしまわないようにスポーツドリンクを買ってきました。よろしければ受け取ってください」
「わぁ、有難く頂戴します。せっかくですので、今いただきますね」
「はい、どうぞ」

 ペットボトルを受け取った真希はフタを外し、ルージュに気をつけつつボトルを口につけます。

「んく、んく………………ふぅ。体が潤いました。ありがとうございます、氷川先生」
「と、とんでもないですっ。……ははははは。喜んで頂けて嬉しいですよ」

 突如、でした。智成からオドオドした雰囲気が消え、まるで別人のような腹黒い笑みを浮かべたのでした。

「え……? せん、せい……? きゅうに、どうされたんですか……?」
「いやぁ。まんまと引っかかってくれてありがとう。やっぱり『一般人』を騙すのは簡単だ」

 智成は長めの前髪を掻き上げ、更に大笑い。額に右手を当てて笑い、5分の1ほど減ったペットボトルを指差しました。

「実を言うとその中には、俺が調合した強力な睡眠薬が入っているんです。もうじき貴女は眠ってしまうのですよ」
「なんですってっ! あなた……ただの教師じゃないわね……。一体なにを――ぁ……」

 睨み付けていた真希の身体が揺れ、やがて立っていられなくなって――。その場に倒れ込んでしまいました。

「く……。からだ、が……。うごか、ない……」
「絵墨さん、抗っても無駄ですよ。あの睡眠薬は、意思でどうこうできる代物ではありませんからね」
「ぅ、くぅ……っ。あな、たは……。なにを、する、つもり………………な、の…………」
「さあ、なんでしょうね? それは、目覚めてからのお楽しみですよ」

 智成は無抵抗になった真希を抱きかかえ、ゆっくりと移動を開始。予め人払いをしている道を使い、第2校舎の3階にある資料室へと向かったのでした。

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