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2 ご挨拶(3)
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「あのね夢卯ちゃん。わたし達『催眠探偵術師』はね、悪いことに催眠術を使えないようになってるの。もし使っちゃうと死んじゃうくらい大変なことになるから、安心してね」
「ミクちゃんは困っているあたし達に、こんなにも親切にしてくれるんだもの。信用してるわ。安心してる」
「えへへ、そっかぁ。では、はじめますっ」
催眠、スタート。わたしは自分のお顔を夢兎ちゃんのお顔に近づけ、10センチくらいの距離でお目目を見つめる。
「――――。――――。――――」
その状態で、普通の人には聞き取れない言葉を静かに喋る。パパやおじいちゃんから教わった独特のリズムで、言葉を夢卯ちゃんにお聞かせしてゆく。
「あ、れ……? なんだか、ぽわって……。ふわふわ、して…………きた……?」
「――――。――――。――――。――――」
ゆらゆらと揺れ出したお目目を見つめ、もう一回繰り返す。そうして術をしっかりとかけると、夢卯ちゃんの右のお肩をぽんっと叩いた。
「はい、かんりょーっ。お疲れさまでしたーっ」
「えっ、も、もう終わったの……? まだ20秒も経ってないんだけど……?」
「わたしたちが使う催眠術は、特殊なんだー。効率の良い『接触方法』ってゆーのを使ってるから、短時間で行えるんだよ」
目の動きと『あ』や『い』などの単音を複雑に組み合わせることで、目的にあった効果を素早く出すことができる。これを覚えるのがすっごく大変で、ちゃんと覚えるのに10年間かかっちゃいました。
「……これで、あたしは催眠術にかかったのよね? どんなのをかけたの?」
「それは、実際にやってみましょー。なので夢卯ちゃんっ、お友達にここにある文字を送ってみてくださいっ」
わたしはスマートホンを触って、とある文を作ってお見せした。
「それを、友達に送る……? い、いいの?」
「ん、いいんだよ。発音しながら打ってみてくださいっ」
「わ、分かったわ。やるわね」
夢卯ちゃんはメッセージアプリを立ち上げて、スルスルスル。人差し指を使って文字を打ち込んでいく。
「ええっと……。ねえねえ聞いて。世の中には、知られていない存在があるんだって」
指を、上へ右へ。フリック入力で、文字を打っていく。
「今日偶然知ったから、教えるね。その名も…………その名も……………………………………な、なにこれ。どんなに頑張っても、ミクちゃんの正体を打ち込めない……っ!」
滑らかに動いていた人差し指が、ぴたっと止まる。ためしに左の手で掴んで指を動かそうとしても、入力に必要な方向には動かなかった。
「まるで、指が別の意思を持ってるみたいだわ……。何をやっても、ダメ」
「そうなってるのはわたしがさっき、『関係者以外には、催眠探偵術師について伝えられなくなる』っていう催眠術を施したから。そのせいで、入力――催眠探偵術師を教える行動は、わたし達佐々木家が作っているご相談サイトを紹介することしかできないんだー」
びっくりしちゃってる夢卯ちゃんのお手手を握りながら、ゆっくりとご説明する。
自分の体がこんな風になるのって、すっごく怖いもんね。少しでも怖い気持ちが減るように、こうしました。
「……こんなコトをできるだなんて……。催眠術ってすごい、すごすぎるわ……」
「んねっ。ウチの催眠術は、すっごい力を持ってるの」
わたし達が使う催眠術は、催眠術の中でも特別。もしパパやおじいちゃん達と一緒に全員で悪用したら、この国を――世界中を、簡単に支配できちゃう。
「しかもね。わたしは『催眠探偵術師』っ。催眠術だけじゃなくて名探偵の技術も持ってるっ。強い武器が2つもあるから、安心してね夢卯ちゃんっ」
「うん、安心させてもらいます。ありがとう、ミクちゃん。改めて、よろしくお願いします。犯人を見つけて、あたしを助けてください」
「んっ、任せてっ。絶対に解決してみせるよーっ!」
夢卯ちゃんが伸ばした右の手をギュッと握り、コクッと大きく頷く。
月橋夢卯ちゃんを守る。
こうしてわたしのお仕事は、いよいよはじまるのでした――。
「ミクちゃんは困っているあたし達に、こんなにも親切にしてくれるんだもの。信用してるわ。安心してる」
「えへへ、そっかぁ。では、はじめますっ」
催眠、スタート。わたしは自分のお顔を夢兎ちゃんのお顔に近づけ、10センチくらいの距離でお目目を見つめる。
「――――。――――。――――」
その状態で、普通の人には聞き取れない言葉を静かに喋る。パパやおじいちゃんから教わった独特のリズムで、言葉を夢卯ちゃんにお聞かせしてゆく。
「あ、れ……? なんだか、ぽわって……。ふわふわ、して…………きた……?」
「――――。――――。――――。――――」
ゆらゆらと揺れ出したお目目を見つめ、もう一回繰り返す。そうして術をしっかりとかけると、夢卯ちゃんの右のお肩をぽんっと叩いた。
「はい、かんりょーっ。お疲れさまでしたーっ」
「えっ、も、もう終わったの……? まだ20秒も経ってないんだけど……?」
「わたしたちが使う催眠術は、特殊なんだー。効率の良い『接触方法』ってゆーのを使ってるから、短時間で行えるんだよ」
目の動きと『あ』や『い』などの単音を複雑に組み合わせることで、目的にあった効果を素早く出すことができる。これを覚えるのがすっごく大変で、ちゃんと覚えるのに10年間かかっちゃいました。
「……これで、あたしは催眠術にかかったのよね? どんなのをかけたの?」
「それは、実際にやってみましょー。なので夢卯ちゃんっ、お友達にここにある文字を送ってみてくださいっ」
わたしはスマートホンを触って、とある文を作ってお見せした。
「それを、友達に送る……? い、いいの?」
「ん、いいんだよ。発音しながら打ってみてくださいっ」
「わ、分かったわ。やるわね」
夢卯ちゃんはメッセージアプリを立ち上げて、スルスルスル。人差し指を使って文字を打ち込んでいく。
「ええっと……。ねえねえ聞いて。世の中には、知られていない存在があるんだって」
指を、上へ右へ。フリック入力で、文字を打っていく。
「今日偶然知ったから、教えるね。その名も…………その名も……………………………………な、なにこれ。どんなに頑張っても、ミクちゃんの正体を打ち込めない……っ!」
滑らかに動いていた人差し指が、ぴたっと止まる。ためしに左の手で掴んで指を動かそうとしても、入力に必要な方向には動かなかった。
「まるで、指が別の意思を持ってるみたいだわ……。何をやっても、ダメ」
「そうなってるのはわたしがさっき、『関係者以外には、催眠探偵術師について伝えられなくなる』っていう催眠術を施したから。そのせいで、入力――催眠探偵術師を教える行動は、わたし達佐々木家が作っているご相談サイトを紹介することしかできないんだー」
びっくりしちゃってる夢卯ちゃんのお手手を握りながら、ゆっくりとご説明する。
自分の体がこんな風になるのって、すっごく怖いもんね。少しでも怖い気持ちが減るように、こうしました。
「……こんなコトをできるだなんて……。催眠術ってすごい、すごすぎるわ……」
「んねっ。ウチの催眠術は、すっごい力を持ってるの」
わたし達が使う催眠術は、催眠術の中でも特別。もしパパやおじいちゃん達と一緒に全員で悪用したら、この国を――世界中を、簡単に支配できちゃう。
「しかもね。わたしは『催眠探偵術師』っ。催眠術だけじゃなくて名探偵の技術も持ってるっ。強い武器が2つもあるから、安心してね夢卯ちゃんっ」
「うん、安心させてもらいます。ありがとう、ミクちゃん。改めて、よろしくお願いします。犯人を見つけて、あたしを助けてください」
「んっ、任せてっ。絶対に解決してみせるよーっ!」
夢卯ちゃんが伸ばした右の手をギュッと握り、コクッと大きく頷く。
月橋夢卯ちゃんを守る。
こうしてわたしのお仕事は、いよいよはじまるのでした――。
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