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第10話 恐怖の対面と、戸惑い マーティン&???視点(2)

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「おーばん、さま……? なにを、おっしゃって……?」
「それは、こちらの台詞だよ。マーティン、君は何を言っているんだい?」

 口をポカンと開けていると、再び困惑された顔がやって来た。
 オーバン様は……。本当に、あの言葉の意味が分かっていない……!?

「あ、あれ? あ、あのっ、お、オーバン様! 今日はっ、あの件っ! ステラ・レンダユスの件でいらっしゃったのではないのですか……⁉」
「? いいや、違うよ。一昨日のパーティーで――妙な噂によって、君が落ち込んでいただろう? そこで様子を窺いに来たのさ」

 ………………………………。
 違う。違っていた。俺や父上の想像は、まるで違っていた。


 オーバン様は、あの件を追求しにいらしたのではなかった!!


 学院時代からの友をっ、俺をっ、案じてくださっていただけだったんだ!!

「あ、あはははは。あははははは。そ、そうだったのですね。あはははははははは」
「そうなのだけど――罪。あれは何だい? 君は何かしていたのかい?」
「いっ、いえっ! なんでもございませんっ!! おっ、お忘れください!!」

 抜群の情報網をお持ちなこの方が、俺達が工作したという噂さえも把握していない。ということは、ステラは誰にも訴えていないこということ。
 だったら正直に白状する必要はなく、俺は必死に誤魔化し始めて――やがて無事、その話題を終わらせることに成功したのだった。

「ごめんよ、マーティン。オレが何か勘違いをさせてしまったようだ」
「とんでもございませんっ。ご配慮痛み入りますっ!」
「…………その様子なら、心配は要らなさそうだ。ならばオレは、失礼するよ」
「はっ、はいっ! ご迷惑をおかけいたしましたぁ!!」

 そうして俺――父上も飛び出してきてお見送りを行い、ミデザトル公爵家の馬車が見えなくなるやその場に崩れ落ちる。そして、

「よかった……。よかったな、マーティンよ……!」
「奇跡です……! 奇跡が起きました……!!」

 俺達は安堵により失禁しながら抱き合い、喜びの涙を流し続けたのだった――。


 〇〇〇


「オーバン、ありがとう。恩に着るよ」
「とんでもございません。貴方様が一つ目の問題発生時に出国されていたのは、わたくし達が原因。今回はその際にいただいた大きな御恩を、ほんの少しお返しできただけでございますよ」

 マーティンと父アダムが大量に失禁した、3時間後。ミデザトル公爵邸内にあるサロンでは、2人の美男が言葉を交わしていました。

「あの男の目元にははっきりとしたクマがあり、随分とやつれていました。貴方様の狙い通り、ステラ様絡みと思い込み1晩怯えていたようですね」
「ステラ様に行ったことが、今度は自分の身に返ってきた。因果の応報が成立したね」
「あの様子だと、通常は懲りて大人しくなるものです。しかしながら彼の場合は」
「無事だと分かれば、すぐに調子を取り戻すだろうね。だから今頃――」

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