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第7話 会場での再会~報告と調律~ ステラ視点(2)

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「貴族からの白眼視を払拭するには、ステラ様と復縁するしかない。そう思い、作戦を練らせているブレインを激しく叱咤したのでしょうね。3人がそれぞれ1つ――合計3つのアイディアが出て、現在それを総出で吟味しているようですよ」

 実はヴィクター様は、邸内の人を――リッダジア家の使用人を一人買収し、変装が得意な方がその人と入れ替わっているそうです。そのため容易く、あちらの現状を把握できてしまうらしいのです。

「とはいえどれも一長一短があって難航していて、決まるのは早くても明日。そこから準備などを行うはずですので、次回お会いする際には詳細をお伝えできると思います」

 明日はインタビューのみで、次に演奏があるのは明後日。そのため『次』は、2日後ですね。

「その間に僕は、その動きに合わせてお礼その2を行います。ですのでその際には、そちらについても報告をさせていただきますね」
「はい、よろしくお願い致します。不必要な言葉だとは思いますが、お気をつけてください」
「不必要だなんて、とんでもない。ステラ様のお言葉は、大きな力となるのですよ」

 宝石のような瞳が柔らかく細まり、本当に嬉しそうに微笑んでくださったヴィクター様。ですがそんな表情は、程なく真面目で真剣なものへと変わります。
 そのように変化した理由は、これから調律を行うから。演奏に大きな影響を与える作業が始まるため、そういったお顔になられたのです。

「……たとえ演奏の神であろうと、ピアノ相棒の状態が悪ければ良い音色は出せません。本日も最高の『土台』を用意致します」

 移動を行いステージに――ピアノの傍に立つと、更に表情が引き締まります。
 今回使用するものは、主催者様が用意してくだったもの――すでに、調律が済んでいるものではあります。ですがそこに細かな調整を加えて、私が弾きやすいようにしてくださる――普段使用している、私専用のピアノのようにコンディションを整えてくださるのです。

「…………………………」

 チューニングハンマーを手にして、弦達を見つめる真剣なお顔。実を言いますと私は以前から、そんなヴィクター様のお姿に視線が吸い寄せられてしまうのです。

 職人による妥協なき、魂と想いが込められた作業。

 今回も私はその様子をしっかりと見守らせていただき、4時間後に全工程が終了。先のお言葉通り、いつものように『最高のパートナー』であるピアノが生まれました。

「……ヴィクター様、ありがとうございます。今度は、私の番ですね」

 そうして私にもスイッチが入り、奏者となった私はステージに上がります。そうしてヴィクター様が作ってくださったフィールドで沢山の音を生み、

 観客の皆様だけではなく、自分も。

 心から満足できる演奏をおよそ30分間行い、降壇後はヴィクター様と満面の笑みで握手を交わしたのでした。





 ※次の投稿分は、再びマーティン視点となります。

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