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第8話 1か月後 俯瞰視点(1)

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「いや~、快適だ。トゥーサン様々だな!」
「ええ。感謝してもしきれませんわ」

 奇跡のような出来事が起きた日から、ちょうど1か月後。テランスとヴェロニクは、お洒落な一戸建てのリビングスペースで――トゥーサンが2人のために用意してくれた物件の中で、ソファーに座りながら優雅に紅茶を楽しんでいました。

 ――商会内の雑務などを朝9時から夜6時まで、週5回行う――。
 ――楽な仕事なのに給料をしっかりともらえて、しかも自炊とはいえ三食無料で食べられる上に物件代もほぼタダ――。
 ――おまけに『当分は姿を隠しておいた方がいい』という理由で衣食住の調達や商会への移動もすべて、トゥーサンが手配してくれる――。

 昔の自分に重なる。そんな理由で好待遇を与えれており、2人はすっかり安定した暮らしを手に入れていたのでした。

「あそこでトゥーサンに出会っていなかったら、終わっていた。俺達はラッキーだった」
「きっと、神様が見てくれていたのでしょう。ロゼーヌやレジスなんかとは大違いですね」
「おいおい、神様とあんなヤツらを比べるな。あんなの、比較するだけでも失礼だ」
「そうでしたわね。すみませんでした、神様」

 一時は殴り合いをするほど険悪になっていましたが、上手くいき始めたためすでに和解済み。おまけにお互いへの愛もすっかり戻っていて、クスリと微笑み合いました。

「ああ、そうだ。アイツらの名前が出て、気が付いた」
「? なんですの?」
「俺達に奇跡を与えてくださったということは、神様は俺達側。つまり?」
「ロゼーヌやレジスを、敵と見做している」
「と、いうことは?」
「見守っている2人を苦しめた罰を、与えるはず」
「正解。きっと、これからロクでもないことが起きるんだろうな」

 困った家族を助けない人間はクズ。許されるべきではない。
 本気でそう考えている2人は、お茶受けとして罰の内容を考え始めました。

「そうだな。馬車の事故に遭って死ぬ、あたりか?」
「生ぬるいですよ。病にかかり、じっくり苦しんでから死ぬ。ですわ」
「いいな、それ――それだけじゃ物足りないな。確か、子どもがいると言っていたな。子どもも病気で死ねばいい」
「先に子どもが死んで、アイツら、ですね。ふふふ。神様、お願いしますね――あら、もうこんな時間でしたね」

 玄関からノックの音が聞こえてきて、2人は気付きました。午後8時――トゥーサンが、当分の食材を持ってきてくれる時間なのだと。

「いつのまにこんな時間に。行こうか」
「ですね」

 命の恩人には、丁寧に対応しないといけない。そんな思いで足早に玄関へと向かい――

「お待たせしまし――…………」「お待たせしま――……」

 ――玄関ドアを開けるや、2人はまるで石像のように固まってしまいました。
 なぜならば、

「よお。久し振りだな」
「会いたかったぜぇ?」

 トゥーサンの隣には、借金取りの2人がいたのですから。



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