運命の人と出逢ったから婚約を白紙にしたい? 構いませんがその人は、貴方が前世で憎んでいた人ですよ

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
15 / 27

第8話 悲願の日 アルチュール視点(2)

しおりを挟む
「ヴィルジニー。ここで休憩しようか」
「そうですね。そう致しましょう」

 従者たちにシートを敷かせたあと馬車を降りて、忌々しい女を馬車の進路に座らせる。そうして合図を送って――もいいが、それだとあっさりと終わってしまう。


『そ、そんな……。ぁぁぁ……。ぁぁぁあああああああああああああああ!』


 俺はブリュノと呼ばれていた頃、コイツのせいで多くのものを失った。
 その怒りは、あっという間の死、では消し去れない。
 そこで更に、ひとつ余興を挟むことにした。

「…………あのね。君に話したいことがあるんだ」
「は、はい。なんでしょう?」
「嘘みたいな本当の話。俺には前世の記憶があるんだ」

 かつてはブリュノ・ミアテーズという名の、子爵家の嫡男だったこと。
 幼馴染のジュリエット・ザルフェルと婚約していたものの、酷い過ちを犯してしまってミレーユ・ファトートと新たに婚約を結んでしまったこと。
 そんなミレーユはとんでもない女で、ブリュノの金目当てですり寄ってきていたこと。
 そんな忌々しい愚行蛮行によってブリュノはすべてを失ってしまい、悲惨な最期を迎えてしまったこと。
 それらを伝えた。

「……アルチュール様は、ブリュノ様……」
「信じられないだろう? だがさっき言ったように、紛れもない事実なんだよ」
「…………アルチュール様は、嘘を吐かない御方。疑ってはおりません」
「で、だ。なぜ急に、そんな話をし始めたか分かるか?」
「い、いえ、分かりません。どうして、なのでしょうか……?」

 目を瞬かせながら首を傾ける、ヴィルジニー。俺はひとり立ち上がり、そんなコイツを見下ろしながら続ける。

「俺はな、前世で果たせなかったことを現世で果たそうとしているんだ。ミレーユに天罰を与え、ジュリエットと今度こそ夫婦になろうとしているんだよ」
「そう、だったのですね……。それは――っ! もしかして……!」

 ヴィルジニーがハッと息を呑んだ瞬間、俺は仲間達に合図を送る。

《いいな、お前達。俺が事実を告げた直後に暴走させるんだ》
《《《》》》

 視線で言葉を交わし、怨敵へと向き直る。

「わたくしが……。ジュリエット、なのですね……!? 貴方様はそちらに気付いてっ、わたくしにお声をかけてくださったのですね……!」
「………………ははは」
「アルチュール様……! ありがとうご――」
「ふざけるなよ。お前がジュリエットなはずない」
 そうじゃ、ない。
 コイツは――
「貴様はなぁ――」


「ミレーユ、なんでしょう? 言われなくても分かってるわよ」


 ………………。
 え?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

出て行けと言われても

もふっとしたクリームパン
恋愛
よくあるざまぁ話です。設定はゆるゆるで、何番煎じといった感じです。*主人公は女性。書きたいとこだけ書きましたので、軽くざまぁな話を読みたい方向け、だとおもいます。*前編と後編+登場人物紹介で完結。*カクヨム様でも公開しています。

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...