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第7話 今度は奪い取る側に アルチュール視点(2)

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「やあ。ちょっといいかい?」
「っ! ドザベルド様!? おっ、お声がけっ、こっ、光栄でございます!」

 ある日の夜のこと。俺は護衛と共に街に繰り出し、そこにいたそばかすの男に声をかけた。
 コイツは、マック。ザストール家の御者を務めている、36歳の男だ。

「君に話したいことがあって、あっちに停めてある馬車に来てもらいたいんだ。オフを楽しんでいるところ申し訳ないが、いいかな?」
「もちろんでございますっ!」

 俺は、ザストール家の一人娘の将来の夫、になる男。そのつもりはまったくないが、現在はそうなっている男だ。
 マックは背筋を伸ばしながら即答し、俺達は馬車へと――第三者の目も耳もない場所へと移動した。

「ありがとう。感謝するよ」
「とんでもございません! わたくしめに御話とは、いったい……?」
「…………マックくん。君は借金があるようだね。それも、多額の」
「!? どうして、それを……」
「俺は貴族だ。そのくらいの情報取集は朝飯前さ」

 というのは、半分嘘。ヴィルジニーから奪い取った金の一部を使い、優秀な人間を雇って調べさせたのだ。

「その額を返済するのは、なかなかに大変。実際、相当苦労しているようだね?」
「……………………」
「そんな君に、嬉しいニュースがある。俺の言うことを聞いてくれたのなら、その借金をすべて払ってあげようじゃないか」

 その瞬間、だった。マックが驚きの声をあげ、こちらに身を乗り出すようになった。

「それだけじゃない。更にあるお礼として、1000万リーバルをあげようじゃないか」
「ほっ、本当でございますか!? 言うこととはっ、なんなのでしょうか……!?」
「それはね。『馬が暴走して突然走り出し、運悪く進路にいたヴィルジニーは轢かれて死んでしまう』。という計画に、協力してもらいたいんだよ」

 俺と出かけている最中のこと。馬を休ませるために馬車を降り、のんびり過ごしていたら突如暴走して死亡――。
 俺がそうなってしまったように、アイツにも死を与えなければならない。そのために行うのが、コレだ。

「お、お嬢様を……。な、なぜ、そのようなことを……」
「理由は話せないが、アレには消えてもらわないといけないんだよ。だから水面下で計画を進めていて、君は最後のピースなんだよ」

 すでにマック以外の『ヴィルジニーに同行する者』は買収していること。
 全員買収しているが故に、口裏を合わせて暴走の責任は負わされないようにできること。
 それらをすべて、伝えた。

「そ、そんな……。ほんとう、に……? 他の者も、うらぎって、いる、のですか……?」
「ああ、本当さ。実際に聞いてみるといい」

 コイツと同じように関係者の周辺を調べ、こちらの味方になるようなポイントを見つけ、そこを突いて仲間にした。
 もちろんソレにかかった費用はすべて、ヴィルジニーから奪っているのだ……!


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