上 下
5 / 25

3話(2)

しおりを挟む
「『この件は、誰にも言えないんだ。すまないが明日の夜も、黙ってついてきてくれ』。あのあと兄様は、従者にこう返してたんだよね」

 首を横に3回振ったアロイス様は、ニヤリ。小さな犬歯を覗かせました。

「時間帯と小声で油断をして、俺に次の日の予定まで教えちゃった。だから現場に行って証拠を押さえられて、その件に関してしーっかりと問い詰められるんだよ」
「なるほど……。昨日は、そういうやり取りもあったのですね」

 よくよく考えてみると、先の従者さんの台詞は質問でした。問われたのなら当然、答えていますよね。

「参加メンバーは俺と、いま下で待ってくれてる俺の従者と王直属の護衛数名、あとできれば姉さん。家族、お城の人間、お城外の人間であり張本人に見られたら、隠蔽のしようがない――全てを吐かざるを得なくなる。ここに来た一番の目的は、事情聴取のお誘いなんだよ」
「仰る通り、ですね。その数でしたら、説明が不可欠になります」

 目撃者のバランスが取れていて、捏造と言い訳もできません。これなら、こちらが知りたいものを聞き出せます。

「この世で一番真実を知りたいのは、シャルロッテ姉さん。絶対に参加するよね?」
「はい。お父様とお母様に説明をして、同行させていただきます」

 外出と帰宅が深夜になりますが、今回は特別な事態です。それにアロイス様達もいてくださいますから、必ず許可をいただけますよね。

「兄様達がいつ出発するかは不明で、俺は気付かれないように二人を見届けてから出る。到着したらすぐ発てるように、準備をしててね」
「分かりました。常にお外を確認して、馬車が停まったら急いで向かえるようにしておきます」

 合流に時間がかかると、私達が着いた頃には帰っている危険性があるにはあります。折角のチャンスを逃さないよう、しっかりと支度をしておきましょう。

「ん、ヨロシクね、姉さん。他に、伝えとかなきゃいけない内容は………………ああそうそうっ。もう一つの肝心なコトを忘れてたよ」

 アロイス様は、懐に左手を突っ込みゴソゴソ。白いブラウスの中から手紙を取り出しました。

「これは、パパ――国王からの手紙なんだ。読んであげて」
「わざわざありがとうございます。拝見致しますね」

 王家の判が捺されたものを開け、紙面に目を落とします。国王様からのお手紙には…………。


 息子がとんでもない迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。今は王ではなく一人の父親、人間として、謝罪をさせていただきます。

 今回の件はあまりに身勝手で、あの者には厳罰をくだすつもりです。決まり次第内容をお伝えいたしますので、今しばらくお待ちください。


 このような内容が、若干震えた文字で記されていました。
 陛下は私を気に入ってくださり、婚約を心から喜んでくださっていましたから……。自分のことのようにショックを受け、お怒りになってくださっているみたいです。

「バカ兄様のせいで、もう滅茶苦茶。今日は俺も、溜まってるものを全部ぶつけるよ」

 アロイス様は私とお城のある方角を見て、ふぅと一回深呼吸。複雑に入り混じった感情を引っ込めると「それじゃあまたあとで。バイバイっ」と手を振り、私達は一旦お別れをしました。


 アロイス様のおかげで今夜、ノルベルト様とじっくりお話ができそうです。
 あの方は、どうして……。あんなことをして、こんなことをしているのでしょう……?
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

処理中です...