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第2章

1話(3)

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 な、なにアレ……。全品90%って、捨て値なんてレベルじゃないわよ。

「店構えはしっかりしていて、胡散臭い店ではなさそうだな。ただこの割引で客が誰一人として居ないのは、不穏だな」
「上流向けエリアにあるお店がここまで下げてたら、普通はお客が殺到する。何かある、んでしょうね」

 店員の態度が異様に悪い。不良品を売るようになった。あの貼り紙は実はウソ。こういうのがあるのかもしれない。

「どうする、ミファ。ここはスルーするか?」
「……あの価格が本当だとしたなら、滅茶苦茶魅力的なのよね……。…………とりあえず現地の人に、あそこの評判を聞いてみるわ」

 地元民にどうしてああなのかお尋ねして、結論を出す。というワケで私は通行人をチェックし、旅行者の雰囲気がない女性に声をかけた。

「すみませーん。あそこにある『エンジュ』ってお店」
「エンジュは止めた方がいいよ! あそこの服は、呪われてるからねっ!」

 喋ってる途中なのに、お姉さんは猛スピードで首を左右に振った。
 ぇ? 呪われてる……?

「一か月くらい前だったからしら。前の店主さんが病気で亡くなって、息子さんが後を継いだんだけどね……。その時から、新しいエンジュで買った服を着ると不幸になる、って言われるようになったのよ」
「服を着たら不幸になる、ですか。具体的には、どのような不幸があったんですか?」
「買った服を着ていた人が数日後に病気になった。買った服を着ていた手練れの冒険者が、Dランクククエスト中に大怪我を負った。こういう事がすでに100件以上起きてるみたいで、今では誰も近づかなくなったんですよ」

 そっか。閑古鳥が鳴いてた理由は、それが原因だったのね。

「『前オーナーの未練が店に呪いをかけてしまった』など色々言われていて、肝試しのスポットになりつつあるような場所なんですよ。あたし的には、この街で一番お奨めできない店ですね」
「そうなんですか。ありがとうございました」

 私が頭を下げると、その女性はもう一度念を押して去っていった。
 なるほど、なるほど。すごい情報が手に入ったわ。

「予想の斜め上を行く、内容だったな。ミファは今の話を信じるか?」
「はっきり言うと、信じないわね。その洋服にそんな力があるはずないわ」

 相手に呪いをかけられるのは、私の曾祖父に宿っていた力――王族の、つまり一般人にはどうやっても真似できない力。仮に前店主さんが膨大な未練や恨みを持って死んでいても、元が『服飾師(ふくしょくし)』――一般人であるなら、絶対に不可能なのよね。

「病気になったのは偶々。大怪我をしたのも偶々。偶然が重なった結果の悪評よ」
「………………。………………」
「? ティル? どうしたの?」
「ああいや、何でもない。あの噂を信じないのであれば、覗いてみるか」
「中流エリア間近プラス全品90%OFFなら、チャンスがありそうだもん。お邪魔してみましょ」

 私はティルに頷きを返し、扉をギィッと開けてこんにちは。悪評漂うお店、エンジュに足を踏み入れたのでした。
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