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3話(1)

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 次の日、午前6時に起床。私達は身支度を整えて食堂で朝ご飯(パンとオムレツと野菜スープ)を食べ、宿屋を出発。まずはお金と武器を手に入れるため、街内にある武器屋を目指した。


「今朝のごはん、美味しかったわね。奥さんの愛情がこもってて、どれも絶品だったわ」
「城のシェフは最高の腕を持ち最高の食材を使っているが、愛情は注がない。その違いが、腕と食材の差を凌駕したんだな」
「そういうのが影響するなんて、料理の世界は奥が深いのね――ってあら? むかし私がティルに愛情込めて作った食事は、評判が悪かったような……?」
「ああ、あれか。……あれは料理が壊滅的すぎて、凌駕できないほどの差があったんだ……」
「??? 後半、なんて言ったの?」
「なんでもない。些末事だ」


 私達はこんなやり取りをしながら進み、6分ほどで目的地に到着。重い木製の扉を押して、広い店内に入った。

「いらっしゃいませ! 本日はどういった御用でしょうかっ?」
「魔石の買取りと、武器を探しにお邪魔しました。まずは買取りをお願いします」

 ハキハキとした40歳前後の男性にティルが返事をして、カウンターに昨日手に入れた5つの魔石を置く。
 ちなみに大事なものの保管係は、必ずこの人。私はよくものを落とす癖があるから、昔からお世話になっているのです。はい……。

「魔石、5つですね。このサイズですと合わせて50000Eになりますが、よろしいですか?」
「ええ、かまいません。その価格でお願いします」

 こうして買取りが成立し、私達は50000Eを手に入れた。
 サーゼルさんの宿屋を使えば1泊4000Eで、3食食べても8200E。しかも清算は宿を引き払う時でいいから、全額武器と杖に使おう。

「ティル。杖は、どのくらいのものがいいの?」
「そうだな……。耐久度と性能を鑑みると、とりあえずはコレでいいだろう」

 ティルが手に取ったのは、2万5000Eする黒い杖。
 確か杖は魔術を使うたびに消耗していって、限界が来ると壊れてしまう。それに値がする杖には『術者の魔力を高める』などの能力が宿っているらしいから、ケチると却って損をするらしい。

「これには、『術の発動を若干早める』オマケがある。できればもっと上のものを選びたいところだが、今はこれにしておこう」
「オッケー。そしたら次は私で……。えーと……。どれにしようかな……?」

 杖の売り場から剣の売り場に移動して、並んでいる武器を見渡す。
 そうね……。私は……。

「これと、これと、これ。あと、それと、それと、それにしましょうか」

 長さ60センチくらいの剣を2本と、短剣を4つ。どれも安い中古品で、全部合わせても2万Eで収まる価格だ。

「すみません。この杖と剣を買わせてもらいます」
「は、はぁ……。お客様はおひとりで、この数を使用されるのですか?」

 カウンターに持っていったら、男性がポカンとした。
 普通の戦士は、どんなに多くても同時に持つのは2つ。今回はその3倍もあるから、ビックリしているみたい。

「実は私はバカ力で、すぐ壊れちゃうんですよ。あはははははははは」

 ティル、この返しはどう? 私の力『祝福』を、完璧に誤魔化せたでしょ――

(剣がすぐ壊れるなんて、バカ力という次元ではないぞ。もう少しマシな言い訳はなかったのか?)

 ――ま、まあ、こんな日もあるわよね。
 今日はたまたま調子が悪かっただけ。頭のキレが悪かっただけだから、気にしない!

「とにかく、壊れやすいんですよっ。はいこれ、4万5000Eですっ」
「は、はい、確かに頂きました。ありがとう、ございました」
「ありがとうございました! 壊れたらまた伺いますねっ!」

 なんか変な空気になっちゃってるけど、これも気にしない。私は勢いでごり押しし、次の目的地である冒険者ギルドを目指したのでした!
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