お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず

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第8話 向かった先は 俯瞰視点(1)

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「…………二度と顔を見せるなと言ったはずだぞ。何をしに来たんだ」

 ヤニックとジネットが家を飛び出してから、9日後。二人は3人掛けのソファーに座り、正面にいる小太りの男に鋭く睨みつけられていました。
 ここはアヴァザール伯爵邸内にある、応接室。ヤニックとジネットは、現当主――弟ジュールに会うため、急いで飛び出していたのでした。

「極めて重要かつ緊急の話ということで、こうして会ってやったが――。もしも大したことのないものだった場合は、過去に宣告した通り厳しい対応を取る。……門番ミゲル
たちに伝えたあの言葉は、まことなのだな?」
「もちろんだとも、嘘はない。今から10日前に、とんでもないことが発覚したのだよ」
「だから私達は急いで支度を整え、必死に歩き続けてここまで来たの。顔を見せたら消すと言われていて、実際に何年間も姿を見せていなかったのよ? なにもなければ動きはしないわ」
「…………それも、そうだな。して、兄さん姉さん。とんでもないことが発覚したと言っていたが、一体なんなんだ?」

 重要で緊急を要する問題に、思い当たるものはない。ジュールは首を大きく捻りながら二人を交互に見つめました。

「…………エマ。お前はその名前を憶えているよな?」
「あれは十年前、いやもっと前だったか? ともかく隣の国の、どこぞの山に捨てて来た疫病神だろう。それがどうしたんだ?」
「…………あやつは、死んではおらんかったのだ。あのあと隣国のノエアンズ公爵夫妻に拾われ、公爵令嬢ステファニーとなっていたのだよ……!」

 しかもそれだけではなく、筆頭公爵家の嫡男と婚約、来週結婚することになっていた。
 ヤニックとジネットはあの日知得した情報を交互に伝え、そうすればあっという間にジュールの顔は真っ青になりました。

「なんてことだ……。エマが生きていただなんて……。おまけに、公爵家の娘になっていただなんて……」
((…………いいぞ。その様子なら、未曽有の衝撃を受けているな))
((…………この反応をしたということは、あの件が頭にあるということよね。だったらきっと上手くいくわ))

 ジュールとは正反対に、心の中でニヤリとしたヤニックとジネット。手応えを感じた二人は密かにアイコンタクトを取り合い、次のステップへと移ることにしたのでした。
 いよいよ――。本格的に、『作戦』が始まることとなったのでした。
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