上 下
11 / 68

第5話 翌日~旅行をしましょう~ エレーヌ視点(4)

しおりを挟む
「エレーヌ……? どうしたのだ……?」
「?? エレーヌ……? 手に持っているその資料に、なにかあったの……?」
「…………い、いえ。なんでもございません」

 おもわず硬直していた私は首を左右に振り、ほかの資料数点に左右の手を伸ばしてみます。
 そうすると………………やはり何度触っても、先ほどのような異変は発生しませんでした。ですので――

「お父様、お母様。私は、こちらの場所を――隣国『レヴェンル』にある『ロッピアンル湖』を、訪れてみたいと思っています」

 こんなことは今まで起きた経験がありませんし、今の衝撃が悪いものには感じませんでした。なので『そこには何かがある』と確信し、そちらを目的地に決めました。

「エレーヌは、そこを中心とした旅をしたいのねっ? 分かったわっ、あなたっ!」
「うむっ! 早速手配をしようじゃないかっ!」

 お母様とお父様は引き続き、私が自分のために時間を使うことを喜んでくださっています。ですので、満面の笑みを浮かべて準備を始めてくださって――その僅か半日後に、私は唖然とすることになってしまいました。


「ええっ!? あっ、明後日からですかっ!?」


 おもわず大きな声を出してしまった理由は、旅の出発が2日後に決まったから。しかも9泊10日という、長期間の日程を組んでくださっていたからです。

「少しでも早く行きたい、そういう顔をしていたでしょう? わたしもこの人も貴方の願いを叶えたくて、つい張りきっちゃったのよ」
「あいにくと我々は公務が立て込んでいて、今回同行はできない。だがお前も知っての通り、うちには優秀な護衛がいるからな。安心して旅を楽しむといい」

 エレーヌ、家族旅行は来月だ! まずは第1弾を決行よっ!
 お父様とお母様は上機嫌でそう仰ってくださり、そのあとお父様はパンパンと手を大きく2回鳴らしました。そうすれば――

「旦那様、お呼びでしょうか?」
「……は。参りました」

 穏やかな雰囲気を持つ長身の女性と、感情の機微がない小柄な女性が現れました。
 前者は私の侍女・メイルで、後者は使用人の一人・ミア。2人はお屋敷の護衛役も兼ねた頼もしい存在で、かなり強い。前世での家――グレット侯爵家の優秀な護衛10人分に匹敵するほどの、実力の持ち主なのです。

「お前達には明後日から、この子の旅に同行してもらう。娘を頼んだぞ」
「承知いたしました。引き続き、お嬢様をお守り致します」
「……お心のままに」

 そうしてあっという間に人選が済み、それが終わると――

「エレーヌ、明日は旅用のお洋服を買いに行きましょっ。オーダーメードは間に合わないけれど、既製品でも素敵なものは沢山あるものっ。気に入ったらなんでも買ってあげるから言って頂戴ねっ!」
「い、いえお母様。とても大きな旅行を実現していただいただけで、私は満足でし――」
「遠慮しないのエレーヌっ。これから貴方は好きなものを着て好きなものを身につけていいのよっ! 自由にたくさんファッションを楽しみましょっ!」

 私はこれまでずっと、アルノー様がお好きな服やアクセサリーのみを着用していました。そういった部分もお二人は喜んでくださっていて、そちらは逆に、私がお母様達にご心配をおかけしたお詫びをしなければならない問題なのですが……。こんな優しさを断るのは、失礼に当たります。
 ですので翌日私達はブティックを数件訪れて素敵なものを5着も買っていただき、

「エレーヌ。楽しんでおいで」
「いってらっしゃいっ。良い思い出をたくさん作ってきてねっ」
「はいっ。マイクお父様、ミリアお母様。行ってまいりますっ!」

 更に次の日の、午前8時過ぎ。私達を乗せた馬車は、隣国レヴェンヌを目指して発進したのでした――。

しおりを挟む
感想 204

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

処理中です...