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第1話 意識が戻ったら エレーヌ視点(2)
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「お父様、お母様。私は、婚約者候補から辞退します。アルノー様との関係は、しっかり絶ちます」
懇願するような、お二人の視線。『縁を切ろう』という言葉――二つの切願に対して、私は即座に頷きを返しました。
「そっ、そうかっ。よかった……っ! ありがとうっ。我々の我が儘を聞いてくれてありがとうっ!」
「ずっと頑張っていたのに、ごめんなさいね……。エレーヌ……」
「いえ、そちらは我が儘などではございません。私もそう思うようになっておりまして、私自身の意思なのですよ」
候補とはいえ婚約者があんな状態になっているのに、あんな内容の手紙をお二人に――家族に、送ってくる神経。
それに、なにより――
『ああそうだ、お前だよ。オレはお前を気に入った。オレの婚約者候補になれ』
『そこで現在その候補者を探していて、お前に目が留まった。……オレに選抜されるのは、とても名誉なことなんだぞ? 当然頷くよな?』
あの言動は、あり得ない。
初対面の相手に向かって、いきなり命令? 自分に選ばれるのは光栄? どんな教育を受けてきたの細かく知りたくなるほどに、失礼。滅茶苦茶な振る舞いだわ。
仮にあんな男と夫婦になっていたら、間違いなく、ロクでもない人生になっていたわ。
((それに――。そんな男に惚れるだなんて、今のわたくしもわたくしよっ!))
今の私ことエレーヌは、『自信に満ち満ちている強気な人』と『グイグイ引っ張っていってくれるオレ様系』がタイプだった。だからといって、アレはないでしょ!
あんな男に惚れてしまい、あまつさえ嬉々として貴重な3年間を注いだなんて……。おバカとしか言いようがないっ! 今日ほど、逆行したいと思った日はないわっ!
「……当時の記憶が混ざっているから、今ならよく分かります。わたくしだけじゃなくて私も、リアム様のような方が素敵だと思います」
お優しいけど、ちょっぴり頼りない方。でも私が危険な目に遭いかけたら、そんな姿は消えてしまって。迷わず身を挺し、颯爽と助けてくださる方。
そんな人と生涯を共にしたい、今はそう思うようになっています。
「自分は世界一の幸せ者、それは大きな間違いだったんですよね。気づかない間に、視野が狭くなってしまっていて――ぁ、いえっ。お父様お母様っ、なんでもありませんっ。お気になさらないでくださいっ」
ポカンとなられているお二人が視界に入り、私は慌てて微苦笑を作りました。
ついつい前世と現世が混ざって、傍からすると奇妙な独り言になっていました。ですので急いでそちらを止め、話題を変えるべく改めてカレンダーを一瞥しました。
「明日がアルノー様曰く、『審判の時』。最終試験を行うため、メギテイズ侯爵邸に集まることになっています」
ダンス、作法、楽器、などなど。当日計7つの試験を行い、そこに3年間で得てきた点数を加え、最高得点の者を自分の婚約者とする。そう決まっていました。
「ですのでその際に、辞退の旨をお伝えします」
できれば即座に関係を絶ちたいところですが、確か今日のアルノー様はお忙しくお会いできません。そこでそのように決め、それから20時間後の午前8時。私はお父様と共に馬車に乗り込み、最後の試験に参加するため――ではなく、アルノー様と決別をするべくメギテイズ邸を目指したのでした。
懇願するような、お二人の視線。『縁を切ろう』という言葉――二つの切願に対して、私は即座に頷きを返しました。
「そっ、そうかっ。よかった……っ! ありがとうっ。我々の我が儘を聞いてくれてありがとうっ!」
「ずっと頑張っていたのに、ごめんなさいね……。エレーヌ……」
「いえ、そちらは我が儘などではございません。私もそう思うようになっておりまして、私自身の意思なのですよ」
候補とはいえ婚約者があんな状態になっているのに、あんな内容の手紙をお二人に――家族に、送ってくる神経。
それに、なにより――
『ああそうだ、お前だよ。オレはお前を気に入った。オレの婚約者候補になれ』
『そこで現在その候補者を探していて、お前に目が留まった。……オレに選抜されるのは、とても名誉なことなんだぞ? 当然頷くよな?』
あの言動は、あり得ない。
初対面の相手に向かって、いきなり命令? 自分に選ばれるのは光栄? どんな教育を受けてきたの細かく知りたくなるほどに、失礼。滅茶苦茶な振る舞いだわ。
仮にあんな男と夫婦になっていたら、間違いなく、ロクでもない人生になっていたわ。
((それに――。そんな男に惚れるだなんて、今のわたくしもわたくしよっ!))
今の私ことエレーヌは、『自信に満ち満ちている強気な人』と『グイグイ引っ張っていってくれるオレ様系』がタイプだった。だからといって、アレはないでしょ!
あんな男に惚れてしまい、あまつさえ嬉々として貴重な3年間を注いだなんて……。おバカとしか言いようがないっ! 今日ほど、逆行したいと思った日はないわっ!
「……当時の記憶が混ざっているから、今ならよく分かります。わたくしだけじゃなくて私も、リアム様のような方が素敵だと思います」
お優しいけど、ちょっぴり頼りない方。でも私が危険な目に遭いかけたら、そんな姿は消えてしまって。迷わず身を挺し、颯爽と助けてくださる方。
そんな人と生涯を共にしたい、今はそう思うようになっています。
「自分は世界一の幸せ者、それは大きな間違いだったんですよね。気づかない間に、視野が狭くなってしまっていて――ぁ、いえっ。お父様お母様っ、なんでもありませんっ。お気になさらないでくださいっ」
ポカンとなられているお二人が視界に入り、私は慌てて微苦笑を作りました。
ついつい前世と現世が混ざって、傍からすると奇妙な独り言になっていました。ですので急いでそちらを止め、話題を変えるべく改めてカレンダーを一瞥しました。
「明日がアルノー様曰く、『審判の時』。最終試験を行うため、メギテイズ侯爵邸に集まることになっています」
ダンス、作法、楽器、などなど。当日計7つの試験を行い、そこに3年間で得てきた点数を加え、最高得点の者を自分の婚約者とする。そう決まっていました。
「ですのでその際に、辞退の旨をお伝えします」
できれば即座に関係を絶ちたいところですが、確か今日のアルノー様はお忙しくお会いできません。そこでそのように決め、それから20時間後の午前8時。私はお父様と共に馬車に乗り込み、最後の試験に参加するため――ではなく、アルノー様と決別をするべくメギテイズ邸を目指したのでした。
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