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幕間 下準備 俯瞰視点

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「アシル。話があるそうだな?」

 ソフィアが、ミーサス山を目指している頃。城では、従者と護衛を連れたレノン国王――父親が、アシルの私室を訪れていた。

((父はあらゆる事態に備え、常時傍に何人も置いている……。もしもその中の人間が犯人に通じていれば、下手に動いた時点で終わりだな……))

 ベッドにいるアシルは黙考し、すぐにそれは終了。弱っている芝居をしつつ、予定通りの言葉を発するようにした。

「父上。今日から4日後の夜、久しぶりに家族5人で食事を摂りたいのです。どうにか、弟たちのスケジュールを調整してはいただけませんか?」
「お前の頼みならば、何でも聞こう。しかし何故(なにゆえ)、四日後の夕食なのだ? 他の日では駄目なのか?」
「四日後はとある国で『幸運』『希望』を司る日とされており、一家揃って食事をする風習があるそうです。僕は、御覧の通りの有様でして……。少しでも縁起を担ぎたいのですよ」

 他国での記念日と風習。それは先日ソフィアから『4日後に全員で食事をするようにして欲しい』と頼まれ、動機が自然になるようライアンが見つけ出したもの。
 ライアンの奮闘のかいあって違和感は微塵もなく、アシルの願いはスムーズに受け入れられた。

「私も、藁にもすがりたい思いだ。全員が食卓に揃うよう、公務を調整しておく」
「父上、ありがとうございます。四日後が今から待ち遠しいですよ」
「ああ、そうだな。アシル、他にも何かあれば遠慮なく言ってくれ。何か食べたい物などはないか?」
「いえ。今望むものは、他には何も――」
「殿下。お一つお忘れですよ」

 傍で控えていた従者のライアンが、控えめに声をあげる。
 これも言わずもがな、演技の一つ。念には念をで、自然さを出すため二人で一芝居打っていた。

「そうでした。今朝ソフィアにその話をしたら、復調を願ったデザートを作りたいと言ってくれたんです。彼女が厨房を使用する許可を、お願い致します」
「…………うーむ。本来は担当者以外、使用はできないのだが……。ソフィア君はいずれ、快復したお前と婚約の儀式を済ませて正式に王太子妃となり、結婚をして王女となる存在。我が家(け)の一員になることが確定している存在だからな。信頼できる人物故、許可しよう」

 ソフィアのこれまでの行動。それらによって特別に許可が下り、無事にアシルの願いが叶いました。

「父上、感謝いたします。僕からのお願いは、間違いなく以上です」
「そうか。何かあったら、いつでも言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」

 そうして2人の下準備は終わりとなり、あとは本番を待つだけ。アシル、ライアン、ソフィアはそれぞれ自分が行うべきことを完璧に行い、いよいよ、その日が訪れるのでした――。




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