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第2話(4)

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「ソフィア……。薬師の力で、そんなことができるのかい……?」
「世界一の薬師なら、できてしまうのですよ。ただそれには複数の素材や作業が必要でして、しばらく時間がかかってしまいます」

 あらゆる素材や道具を保管していたかつての工房は、とっくになくなっていますからね。最低でも、1週間前後は必要になります。

「ソフィア様。人員を割いて、それらを調達――してしまえば、相手に悟られてしまいますね」
「他にも仲間がいて犯人に知られたら、こちらのアドバンテージがなくなってしまう。そこで『気付いていないフリをして泳がせる』が一番だと思う、けど……。そうしたら、毒を飲まないといけなくなってしまうね……」

 料理人が仲間であるのなら、食べ具合をチェックして都度報告しているはず。残すなどをしていたら怪しまれて、同じくアドバンテージを失いかねません。

「自分が別の食事を用意して、本来の夕食は捨てる。それ自体は簡単なのですが、仲間の数などが不明でしたら……。目撃、されてしまう可能性もありますね……」
「かと言って一週間飲み続けるのは、危険……。参ったな……」
「いえ、そこは問題ありませんよ。同時に有害成分を出す薬を服用すれば、それは無害となりますからね」

 先述した、排出を手伝う薬。あれを飲みつつ過ごせば、敵に微塵も悟られずに済みます。
 言わずもがな、それまで故意に毒を飲むのは好ましくないのですが――。完成は明日ですしその日に排出を始められるので、悪影響はほぼありません。

「ですので目的の薬を作る前に、排出用のお薬を作りたいと思います。こちらはその日のうちに完成しますから、そうですね。明日は山で回復を祈るなどと偽り外出して、薬を作って戻ってきます」
「……ソフィア、ありがとう。僕は独りでも大丈夫だから、ライアンに同行をお願いしするよ」
「回復祈願でしたら、自分がご一緒しても怪しまれません。お供させていただきます」
「ぁ、いえ。お気持ちはとても有り難いのですが、ライアンさんは念のため、こちらに残っていて欲しいのですよ」

 ないとは思いますが、犯人が新たな手を追加する危険性があるにはあります。もしかしたらお一人では対処しきれないケースがあるかもしれませんから、頭を下げて不参加をお願いしました。

「畏まりました。ですが、それでしたらほかの――失礼致しました。ご実家には、彼女がいましたね」
「はい。メリッサさんにお願いして、ついてきてもらいます」

 美人で頭がよくて、何でもできてしまう完璧なお姉さん。ライアンさんの婚約者がいるので安心で、こうしてわたしの予定は決まったのでした。


 ……待っていてくださいね、アシル様。今度こそ、お助けしますから。














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