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プロローグ 理不尽のはじまりとおわり 俯瞰視点

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「ビアンカ! 貴様はこれだけ注意をしても態度を改めないんだな!! そんな人間は不要だっ! 聖女の資格を剥奪し、この国を追放する!!」

 温暖な気候と広大な大地、豊かな土壌を持つ、『ザネラスエアル』。この国にはこの世界で唯一聖女がおり、聖女が毎日祈りを捧げることによって『豊作』が千年以上も続いてきました。

 しかしながら半年前、突如として状況が一変。突如気温が下がり土壌が劣化し始め、ザネラスエアルは『不作』『凶作』に陥ってしまったのでした。

 そのため、この国の王太子であるグスターヴ・ザネストンは――


『祈りを怠けているんだろう!! 真面目にやらないか!!』

『真面目にやっている? だったらなぜ突然こうなったんだ!? 見え透いた嘘を吐くな!!』


 聖女であるビアンカ・ラナフェーリに対し、厳しく注意を行いました。しかしながら一向に回復する気配はないため、ついにこのような決断をしたのでした。

「グスターヴ殿下、お待ちくださいっ。わたしは日々、真摯に祈りを捧げております。恐らくは別の、何かしらの原因があって――」
「聖女は代々1000年以上祈りを捧げ、ずっと豊作が続いてきたんだぞ? これまでと同じことが、同じ状況下で行われているんだぞ? 下手な言い訳をするな!!」

 これまでとは異なる点は、何一つありませんでした。そのためグスターヴは一蹴し、


「1日たった・・・3時間だというのに! 祈りがめんどくさくなっていたんだろうっ!!」

「聖女には最高の環境を用意してやっているのに……! 恩恵だけ得ようだなんて、そんな考えは許さんぞ!! つけているリングギフトをさっさと渡せ!!」


 この場である大神殿全体に響き渡る程に声を荒らげ、鬼の形相で詰め寄りました。
 聖女を聖女たらしめているものは、人ではなく赤色の宝石が埋め込まれた指輪。この国の建国時に天から降ってきたとされる通称『神からの贈り物ギフト』に『豊穣』をもたらす力が宿っており、それが『適性』を持つ者の願いに反応し、国全体にその効果を行き渡される仕組みとなっているのです。

「グスターヴ殿下っ。わたしは決して――きゃあ!?」
「ふん。適性が高いという理由で選ばれただけなのに、自分が偉いと自惚れるとは。やはり、所詮は得体のしれん血が流れる孤児だな」

 ビアンカは生まれた直後から孤児院育ちで、前任の死去時に適性が最も高かったという理由で任命されていました。聖女であるが故に口にはしてはいませんでしたが、グスターヴには汚物に対するような感情がありました。
 ですので指輪を奪い取りながらたっぷりと心ない差別的な言葉をぶつけ、そんな振る舞いをしたのは彼だけではありませんでした――。


「貴様のせいで大きなダメージを受けてしまったではないか!! この役立たずが!!」
「貴女を聖女に選定してしまったせいで、わたしは理不尽に非難される羽目になっているのよ!? どうしてくれるのよ!!」
「「「「「お前のせいで俺達の畑は大変なことになってるんだぞ!!」」」」」
「「「「「この裏切り者!! 信じて損したわ!!」」」」」

 国王や神殿長などなど。貴族、農民などなど。国の住人の99・999パーセント以上が声を揃えて非難し、追放のため国境へと連行される際は、ビアンカへと沢山の石が投げつけられたのです。

「ぅ……。いた、い……。やめて、ください……。しんじて、ください……」
「「「「「うるさい!! お前の言葉なんて信じるはずがないだろ!!」」」」」」
「「「「「死ね! 死ねっ!!」」」」」」
「「「「「聖女の面汚しめ! 無残に死んでしまえ!!」」」」」


 そうしてかつて聖女と呼ばれ慕われた少女は、投石によって傷だらけになったあと隣国にて捨てられて・・・・・しまいました。そしてザネラスエアルではまもなく新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民は状況の回復を確信したのでした。
 ですが――。
 彼ら愚か者を待っているのは、豊穣ではなく――

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