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プロローグ リュシエンヌ視点(1)
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「やめてくださいっ! お願いしますっ! それはっ、もうこの世には居ないおばあ様からいただいた――あ、あぁっ! ぁぁぁ……」
貴族令息と令嬢が集まる王立・ダンヴァール学院の、まったく人の気配がない校舎裏。そこに居るわたしは、唇を震わせながらその場にへたり込んでしまう。
独りでに力が抜けて、独りでに頬を涙がつたっている理由……。それは、今は亡きおばあ様からいただいたネックレスを――宝物を、踏みつけられて壊されてしまったからです……。
「あら、ごめんなさいね。最初はね、そのネックレスを壊す真似をするつもりだったの。でも慌てふためく姿を見ていたら、もっとイジメたくなっちゃったの」
「その判断は正解ですわ。おかげで良いものが見られましたもの」
「ええ、本当に。正解を超えて大正解ですわ」
大事なネックレスを踏みつけたローバリア伯爵令嬢パトリシア様が、ニヤリとほくそ笑み……。その両隣にいるハチユイド伯爵令嬢マチルド様とアラバーク伯爵令嬢ヴァランティーヌ様も、一緒になってクスクス嗤う。
――わたしが泣いて、3人が面白がる――。
――今ではすっかり、そんな関係が日常となってしまっていました――。
……こんなことになってしまった切っ掛けは、特別ないんです……。
始まりは、2か月前――ここ王立・ダンヴァール学院に入学して、1か月が経った頃でした……。
『ねえマチルド様、ヴァランティーヌ様。この子、良い声で鳴いてくれそうじゃない?』
『確かに。良い反応がありそうですわ』
『ちょうど、学院生活に退屈していたことですしね。この子で遊びましょうか』
学院の中で一番地位が低い男爵家の令嬢であり、特別縦の繋がりも横の繋がりもない人間――反撃される心配のない一番攻撃をしやすい相手という理由で、たまたま目をつけられてしまい……。その時からわたしは、この人達が『愉快な気分になるため』の玩具(おもちゃ)になってしまったのでした……。
『では決まりね。うふふ。楽しませて頂戴ね、リュシエンヌ・ミラレイティアさん』
突き飛ばされたり、水をかけられたり、ノートを破られたり、どこからか持ってきた腐りかけの残飯を食べさせられたり……。
僅か2か月の間に、合わせて54回も……。ほぼ毎日のように、何かしらをされていたのです……。
「ぁ、ぁぁぁ……。おばあさまの……。おばあさまからの、おくりものが……」
この方達は、わたしの反応を見て面白がっています。だから何をされても反応しなければ、飽きてやめてくださると思いました……。
そう思ったから最近はずっと、一生懸命我慢をして反応せずにいたのに……。駄目、でした……。飽きて離れていくどころか、わたしを泣かせるために行いがより過激になってしまって……。
宝物を……壊されて、しまった……。
「恨むのなら、必死に我慢し続けていた自分を恨みなさい。なにもかも、自分が蒔いた種よ」
「貴女の考えなんて筒抜けですわ。逆効果になってしまいましたわねぇ」
「これに懲りたら、二度と我慢なんてしないことですわ」
もうこの世にはいない人からの最後のプレゼントだと知っても、この人たちには微塵も罪悪感がありません……。3人はネックレスを拾い上げて抱き締めているわたしを見下ろし、鼻で笑って楽しげに去っていってしまったのでした……。
貴族令息と令嬢が集まる王立・ダンヴァール学院の、まったく人の気配がない校舎裏。そこに居るわたしは、唇を震わせながらその場にへたり込んでしまう。
独りでに力が抜けて、独りでに頬を涙がつたっている理由……。それは、今は亡きおばあ様からいただいたネックレスを――宝物を、踏みつけられて壊されてしまったからです……。
「あら、ごめんなさいね。最初はね、そのネックレスを壊す真似をするつもりだったの。でも慌てふためく姿を見ていたら、もっとイジメたくなっちゃったの」
「その判断は正解ですわ。おかげで良いものが見られましたもの」
「ええ、本当に。正解を超えて大正解ですわ」
大事なネックレスを踏みつけたローバリア伯爵令嬢パトリシア様が、ニヤリとほくそ笑み……。その両隣にいるハチユイド伯爵令嬢マチルド様とアラバーク伯爵令嬢ヴァランティーヌ様も、一緒になってクスクス嗤う。
――わたしが泣いて、3人が面白がる――。
――今ではすっかり、そんな関係が日常となってしまっていました――。
……こんなことになってしまった切っ掛けは、特別ないんです……。
始まりは、2か月前――ここ王立・ダンヴァール学院に入学して、1か月が経った頃でした……。
『ねえマチルド様、ヴァランティーヌ様。この子、良い声で鳴いてくれそうじゃない?』
『確かに。良い反応がありそうですわ』
『ちょうど、学院生活に退屈していたことですしね。この子で遊びましょうか』
学院の中で一番地位が低い男爵家の令嬢であり、特別縦の繋がりも横の繋がりもない人間――反撃される心配のない一番攻撃をしやすい相手という理由で、たまたま目をつけられてしまい……。その時からわたしは、この人達が『愉快な気分になるため』の玩具(おもちゃ)になってしまったのでした……。
『では決まりね。うふふ。楽しませて頂戴ね、リュシエンヌ・ミラレイティアさん』
突き飛ばされたり、水をかけられたり、ノートを破られたり、どこからか持ってきた腐りかけの残飯を食べさせられたり……。
僅か2か月の間に、合わせて54回も……。ほぼ毎日のように、何かしらをされていたのです……。
「ぁ、ぁぁぁ……。おばあさまの……。おばあさまからの、おくりものが……」
この方達は、わたしの反応を見て面白がっています。だから何をされても反応しなければ、飽きてやめてくださると思いました……。
そう思ったから最近はずっと、一生懸命我慢をして反応せずにいたのに……。駄目、でした……。飽きて離れていくどころか、わたしを泣かせるために行いがより過激になってしまって……。
宝物を……壊されて、しまった……。
「恨むのなら、必死に我慢し続けていた自分を恨みなさい。なにもかも、自分が蒔いた種よ」
「貴女の考えなんて筒抜けですわ。逆効果になってしまいましたわねぇ」
「これに懲りたら、二度と我慢なんてしないことですわ」
もうこの世にはいない人からの最後のプレゼントだと知っても、この人たちには微塵も罪悪感がありません……。3人はネックレスを拾い上げて抱き締めているわたしを見下ろし、鼻で笑って楽しげに去っていってしまったのでした……。
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