上 下
21 / 33

6 大事なイタズラ(3)

しおりを挟む
「なるほど、素晴らしいお話ですね。ただ……。イタズラをしたあやかし殿にとっては物足りないと感じるのでしょうね」
「はい。『猫の大冒険』を読んだ時、そう思ったと思います」

 トラとの修行だったりダリアの登場だったり、あやかしさんは派手めな出来事が好きだった。
 お話って、読む人にとって感想や印象が全然変わっちゃうもんね。そのあやかしさんにとっては、つまらない場面になったはず。

「あやかしさんがしたイタズラも、きっと派手になってると思います。もしちゃんと見て、感じられなかったらあとで失敗しちゃいますし、レオンさん。今回はお願いします」
「畏まりました。失礼します、クイーン」

 ペコッとお辞儀をして、私は優しくお姫様抱っこをしてもらいました。
 今までみたいに自分で移動をしてたら、そっちに気を取られてイタズラを隅々まで見れないかもしれない。そんな時はこうしてもらって、移動を気にしなくてもいいようにするのです。

「レオンさんのおかげで、ヒロを落ち着いて観察できます。……ヒロは、公園に入っていきましたね」
「ええ、そうですね。早速異なることが起きました」

 さっきご説明した本来の『猫の大冒険』では、ヒロは公園の出入り口の前でクロに追いかけられ始める。
 でも目の前にいるヒロは、そのまま公園に入っていっちゃいました。

「…………あ。公園の真ん中で、クロと会いましたね」
「ヒロ殿とクロ殿は、無言で向かい合っていますね。まずはヒロ殿が挨拶を行い、続いて――始まったようですね」

「フシャアアアアアアアアアッツ!!」
「なっ、なんなのっ!? どうしたのっ!?」

 俯いていたクロは急に顔を上げて、ヒロに飛びかかりました。

「あぶなっ! とっ、とりあえず逃げないと!!」
「フシャアアアアアアアアアアアッ!!」
「くっ、黒猫さんっ! お話を聞いてっ! 僕のお話しを聞いてくださいっ!」
「フシャアアアアアアアアアッツ!!」

 上手く避けたヒロは逃げながら何回もお願いをするけど、クロはこんな調子。なので逃げ切るしかなくなって、ヒロは一生懸命走ります。
 けど――。

「わあっ! すっ、進めない!?」

 道をしばらく走ったヒロが角を曲がると、そこは行き止まり。周りは飛び越せないくらい高い塀があって、ヒロはクロに追いつかれてしまいました。

「小僧。追いつめたぞ……っ!」
「まっ、待ってください黒猫さんっ! ボクはここを通りたいだけなんですっ! 縄張りを荒すつもりなんてなく――」
「俺の縄張りに無断で入った者は、誰であっても絶対に許さない……! 覚悟しろ!!」
「こ、怖い……。怖い、けど……………………ボクは……っ。ボクは、大好きなママに会うんだっ。ここで負けるもんかっ!!」

 垂れていたヒロのしっぽがピンッと立って、キッと相手を睨みつけました。
 そうして2匹の戦いが始まって、ヒロは前足の爪を出します。

「やぁっ! はあっっ!」
「シャアア! フシャアアアアアアアっっ!!」
「たあああぁぁっ! はああああっ!」
「シャアアァァっ!! フシャアアアアアアアアアアアアっっ!!」
「ぅっ、うぁぁっ!? ぅぐっ……っ。ぅぅ……っ」

 ヒロは勇気を出して戦うけど、クロは何歳も年上で身体も大きい。
 戦って勝てる相手じゃなくて、やがて深い傷を負ってしまいました。

「クロの攻撃を受けて、ヒロはピンチになるんですね。だから修行がなくてもイタズラはそのままになっていて、そのあとは……」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

催眠探偵術師のミク

柚木ゆず
児童書・童話
 みんなは、催眠探偵術師って知ってるかな?  催眠探偵術師ってのはね、催眠術の技術と探偵の知識と知恵を使って事件を解決する人達のこと。わたしのひいひいおじいちゃんとひいひいおばあちゃんが『名探偵』と『有名な催眠術師』で、その影響で催眠術を使える探偵が誕生したんだよっ。  わたしも中学3年生だけど催眠探偵術師で、今日初めてお仕事をすることになったの。  困ってる人は、放っておけないもんねっ。  困ってる人を助けるために、頑張りますっ!

あこがれチェンジ!

柚木ゆず
児童書・童話
 ねえねえ。『アコヘン』って知ってる?  カッコよかったり、キラキラしてたり。みんなにも、憧れの人っているよね?  そんな人になれちゃうのが、アコヘンなの。  こんな人になりたいっ! そんな気持ちが強くなると不思議なことが起きて、なんとその人とおんなじ性格になれちゃうんだって。  これって、とっても嬉しくって、すごいことだよね?  でも……。アコヘンには色んな問題があって、性格が変わったままだと困ったことになっちゃうみたい。  だからアコヘンが起きちゃった人を説得して元に戻している人達がいて、わたしもその協力をすることになったの。  いいことだけじゃないなら、とめないといけないもんね。  わたし、陽上花美! パートナーになった月下紅葉ちゃんと一緒に、がんばりますっ!

サチ

麗蝶
児童書・童話
夏休み、小学3年生の叶(かなえ)は祖父母の家で不思議な少女と出会う。 その少女は何者なのか。 彼女が叶(かなえ)にもたらすものとは……? 4話完結の短編作品です。 拙い文章ですが、お読みいただけるとありがたいです。

『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……

弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」 そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。 コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。 ---------- あらすじ ---------- 空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。 この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……? (2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

演劇とトラウマと異世界転移~わたしが伯爵令嬢のフリ!?~

柚木ゆず
児童書・童話
 とある出来事が切っ掛けでトラウマを抱えている、演劇部所属の中学3年生・橋本エリス。  エリスは所属する演劇部の大事な発表会が始まる直前、突然足もとに現れた魔法陣によって異世界にワープしてしまうのでした。  異世界にエリスを喚んだのは、レファイル伯爵令嬢ステファニー。  ステファニーは婚約者に陥れられて死ぬと時間が巻き戻るという『ループ』を繰り返していて、ようやく解決策を見つけていました。それを成功させるには姿がそっくりなエリスが必要で、エリスはステファニーに協力を頼まれて――

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

処理中です...