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第2話 終わりの始まり アリアーヌ&コンスタン視点

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「お父様。エドモンおじ様は、お帰りになられたのですね」
「ああ、帰ったよ。5年前に結んだ婚約は、なかったことになった」

 花壇で涙を流した、その翌日の夕方。ノックと共にお父様がわたしの自室にいらっしゃり、寂しげに書類を差し出しました。

「エドモンは……エドモンだけじゃないな。コンスタン君もコンスタンの母親ドロテも、二度とココに来るつもりはないそうだ」
「そう、ですか……」
「おまけに、お前の足に関する謝罪は一言もなかったよ。故にあの件は伝えなかった」

 花壇での出来事に対する詫びがあれば、二つの懸念をあちらに伝えよう。お父様はあの件をとても怒ってくださっていましたが、最後の慈悲としてそうされるつもりでした。
 ですが予想通り、そんな時は訪れなかったようです。

「……あやつもコンスタン君も、全員変わってしまったな……。いや……。みな、最初からそういう人間だったのだろうな」

 大金を手にしても変わらない人を、わたしもお父様も知っています。
 コンスタンやおじ様、おば様があんな風になったのは、元々そういった性質を秘めていたから。

 ……そう、途中で分かっていたんだと思う。

 でも。その事実をわたしは受け入れたくなくて、心の奥底に無理やり押し込んでいたのだと思う。

自分の弟ライヴァンや知人には、私から話しておく。今はゆっくり身体と心を休めなさい」
「……はい。そうさせていただきます」

 どんなに問題がある人でも、ずっと一緒だった存在が消えるのは辛いものがある。
 なのでしばらくは、お言葉に甘えて――。趣味のお菓子作りをしたり天体観測をしたりして、静かな時間を過ごすことにしたのでした。


 〇〇


「コンスタン、帰ったぞ。愚か者達との縁はしっかりと絶ったから、安心しろ」
「ありがとう父上。これでイライラも多少はマシになるはずだ」

 不愉快な思いをした、その翌日の夜。屋敷に戻って来た父上をエントランスで出迎え、俺は肩を竦めてみせた。

 嫉妬して心にもない言葉を吐く女。

 書類上とはいえ、そんな女と繋がりがあるという状態は不快だった。
 両家当主が合意してサインしたことで、あの婚約は正式に白紙となった。ようやく苛立ちの原因が消えて、スッキリした。

「いつもいつも同じようなことを吐くアリアーヌの父親ジェラルドに、オレもいつも腹が立っていたんだ。もっと早く絶縁すべきだったな」
「まったくその通りだよ。……はぁ。しばらくはゆっくりして、昨日とこれまでのストレスを発散させよう」

 宝石店や骨董品店を巡って、よさげなものを買うとしよう。
 金は、いくらでもあるんだからな。

「今日はもう、遅い。明日、まずは宝石を見に行くか」
「おお、それは良い予定だ。オレとドロテは、最高級リストランテでランチをしてこう」

 そうして早速俺達は予定を決め、沈んでいた太陽がのぼると出発。我が家自慢の馬車に乗り込んで、目的地を目指したのだった!

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