大好きな人の幼馴染は、とても酷い人でした

第２０話 その後の関係者～レイオンの父バーダと母ルーナの場合～ 俯瞰視点（２）

「まずは……。あの店で最も高いネックレスを買って、レイオンに差し出す……」

　西への進路を変更して、すぐのことでした。バーダはこれから自分達が取る行動を、整理し始めました。

　レイオンとアリアのご機嫌を取って許しを得る。

　バーダとルーナはそういった作戦を実行すると決め、その計画の第一段階としてアリアにプレゼントを――自分のコネクションがないと買えないものを贈ろうとしていたのです。

「ネックレスを皮切りにして、特別ものを贈り続けたら……。いつかは機嫌が回復するはずだ」
「ええ、ある程度は許すようになるはず。少なくとも、最悪の事態は回避できるはずよ」

　追放。
　この状況下ならレイオンがそれを望めば、当主夫妻であろうとも防げない。レイオンは十中八九それを望み、親族全員が応えてあっという間に居場所を失ってしまう。
　息子の怒りを少しでも鎮めることができたなら、そこまでのことにはならない。
　バーダとルーナはそう考えていて、静かに頷き合いました。

「……大丈夫だ。きっと大丈夫だ。致命傷は防げる……！」
「しっかりと反省を表して、二度としないと誓い、アリアさん――アリア様に尽くし続けれたら……。地獄を見ずに済むわ」
「……せっかくこの手にある物を全て失うなんて、耐えられん……！　ルーナっ、必ず施行させよう！」
「もちろんよ！！　子爵令嬢なんかにペコペコするのは不愉快だけれど……我慢しましょう」

　こんな時でもふたりはふたり。反省など微塵もしておらず、軽く舌打ちをして再度頷き合いました。

「お互い、当分プライドは捨てよう。いいな？　絶対に内心を表に出してはならんぞ」
「当たり前よ。つまらないミスはしないわ、あなたこと気を付けて頂戴ね」
「無論だ。……たった今、心の中に箱を作った。不満はこの中に詰めていき、レイオン達がいない場所と吐き出すようにするさ――ん？」

　引き続き、醜い言葉を口にしている時でした。不意に、バキン、という音が響きました。

「なんなんだ今の音は？　あんな音、初めて聞いたぞ……？」
「そうね……？　なにかしら……？」
「車輪が、何かしらを踏んだのか……？　……なにか、嫌な予感がする。おい、いったん馬車を止め――」

　馬車を止めろ。その言葉が、最後まで紡がれることはありませんでした。
　なぜならば――

「うあああああああああああああ！？」「きゃあああああああああああああああ！？」

　――そんなことを喋っている余裕がなくなってしまうからです。

　バキン！　バキッ！　バキン！！

　そんな音と共に、車内が激しく揺れ始め――そこからはあっという間でした。

「ぐああああああああああああ！？」「ぎゃああああああああああああああああ！？」

　ものすごい勢いで車内が右へと傾き、その勢いで２人の身体は猛スピードで壁へと飛んで行き――