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第4話 違和感 レイオン視点(1)
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「…………やっぱりそうだ。あれはおかしい」
アリア様と長い時間を過ごし、あのような形でお別れるすることになった、その次の日の夜。賞受賞に関する、今日の分の各所への対応が終わったあと――ようやくゆっくり頭を使えるようになった僕は、自室で静かに頷いた。
『……申し訳ございません。ずっと黙っていてごめんなさい……。実はレイオン様に、お伝えしなければならないことがあるんです』
『本当はお会いしてすぐに、お伝えしなければならなかった……。けど、思い出を――最後の思い出を作りたくて……。ずっと言えずにいたんです……』
婚約の話が持ち上がり、相手の要望で異性との交友を絶たなければならない。
僕らの年齢になると婚約の話が出るのは当たり前だし、数は非常に少ないものの、その段階から『男』の影を排除する場合があるにはある。たった一度とはいえ、そういった話を実際に耳にしたことがあった。
だからおかしい部分はどこにもなくて、それらの点に関しては納得できる。
ただ――。
いくら考えても納得のできない、おかしな部分があった。
『無事、目標を達成できた。……やっと、想いを伝えられる』
久しぶりにお会いできた嬉しさと目標達成の安堵で、つい口から零れてしまった言葉。それに対して彼女は、
『? レイオン様? なにか仰りましたか?』
こう返したのだけれど、それはあり得ないことなんだ。
アリア様は、非常に耳が良い――音楽家として『耳』が良いことに加え、とても優れた『聴力』を持っている。あの距離で、あの声量で、おまけに会話をしている際に発された言葉が、聞こえていないはずがない。
『ぁっ! え? あ、あれ……?』
『?? どうかなさいましたか?』
『う、ううん、なんでもないよ。ところでアリア様、ディナーのあとお時間をいただけませんか? どうしてもお伝えしたいことがあるんです』
これまでの交流によって耳の良さを知っていたから焦ってしまい、しまったと覚悟をしたのに何も起きなかった。だから僕はあの時、戸惑っていたんだ。
「……アリア様は気遣ってくださって、聞こえていないフリをしてくれた? それもあり得ない」
だって僕はこれまでずっと、様々な理由で恋愛感情は伏せていた――明かすことはできなかった。アリア様は僕が自分に好意を抱いていると知らないのだから、あんな台詞を聞いたら多少なりとも驚いてしまう。
……これも一緒に過ごしているうちに、分かるようになったこと。ああいった時にアリア様は、ついつい顔に出てしまう。
「……ということは……。アリア様は、僕が好意を抱いていることを――恐らくはその先も……。告白のために賞の受賞を目標としていたことも、把握されている」
となればソレは、父上と母上が何かしらの形で深く関わっているという証左になる。なぜならばアリア様への恋心とそのための約束は、父上と母上にしか明かしていないものだからだ。
「……父上か母上、あるいは両方が関与しているのなら……。あの時に出てきた婚約話も、嘘だという可能性が高くなる」
あの人達は格下貴族との結婚に難色を示していたし、受賞後はどうにかして反故にしようとする気配を何度も感じていた。自分達の思い描いた状況を作るために、秘密裏に脅迫や当主相手の交渉を行っている可能性は大いにある。
「………………確かめないといけない。真実を」
直接聞いても、決して口を割らないだろう。
本人から、すべての真実を聞き出すには――
アリア様と長い時間を過ごし、あのような形でお別れるすることになった、その次の日の夜。賞受賞に関する、今日の分の各所への対応が終わったあと――ようやくゆっくり頭を使えるようになった僕は、自室で静かに頷いた。
『……申し訳ございません。ずっと黙っていてごめんなさい……。実はレイオン様に、お伝えしなければならないことがあるんです』
『本当はお会いしてすぐに、お伝えしなければならなかった……。けど、思い出を――最後の思い出を作りたくて……。ずっと言えずにいたんです……』
婚約の話が持ち上がり、相手の要望で異性との交友を絶たなければならない。
僕らの年齢になると婚約の話が出るのは当たり前だし、数は非常に少ないものの、その段階から『男』の影を排除する場合があるにはある。たった一度とはいえ、そういった話を実際に耳にしたことがあった。
だからおかしい部分はどこにもなくて、それらの点に関しては納得できる。
ただ――。
いくら考えても納得のできない、おかしな部分があった。
『無事、目標を達成できた。……やっと、想いを伝えられる』
久しぶりにお会いできた嬉しさと目標達成の安堵で、つい口から零れてしまった言葉。それに対して彼女は、
『? レイオン様? なにか仰りましたか?』
こう返したのだけれど、それはあり得ないことなんだ。
アリア様は、非常に耳が良い――音楽家として『耳』が良いことに加え、とても優れた『聴力』を持っている。あの距離で、あの声量で、おまけに会話をしている際に発された言葉が、聞こえていないはずがない。
『ぁっ! え? あ、あれ……?』
『?? どうかなさいましたか?』
『う、ううん、なんでもないよ。ところでアリア様、ディナーのあとお時間をいただけませんか? どうしてもお伝えしたいことがあるんです』
これまでの交流によって耳の良さを知っていたから焦ってしまい、しまったと覚悟をしたのに何も起きなかった。だから僕はあの時、戸惑っていたんだ。
「……アリア様は気遣ってくださって、聞こえていないフリをしてくれた? それもあり得ない」
だって僕はこれまでずっと、様々な理由で恋愛感情は伏せていた――明かすことはできなかった。アリア様は僕が自分に好意を抱いていると知らないのだから、あんな台詞を聞いたら多少なりとも驚いてしまう。
……これも一緒に過ごしているうちに、分かるようになったこと。ああいった時にアリア様は、ついつい顔に出てしまう。
「……ということは……。アリア様は、僕が好意を抱いていることを――恐らくはその先も……。告白のために賞の受賞を目標としていたことも、把握されている」
となればソレは、父上と母上が何かしらの形で深く関わっているという証左になる。なぜならばアリア様への恋心とそのための約束は、父上と母上にしか明かしていないものだからだ。
「……父上か母上、あるいは両方が関与しているのなら……。あの時に出てきた婚約話も、嘘だという可能性が高くなる」
あの人達は格下貴族との結婚に難色を示していたし、受賞後はどうにかして反故にしようとする気配を何度も感じていた。自分達の思い描いた状況を作るために、秘密裏に脅迫や当主相手の交渉を行っている可能性は大いにある。
「………………確かめないといけない。真実を」
直接聞いても、決して口を割らないだろう。
本人から、すべての真実を聞き出すには――
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