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プロローグ アリア視点(1)

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「アリア様、夢のような時間でしたね」
「はい。耳で音を聴いているはずなのに、目で景色を見ているかのようでした。こんな素敵な機会をくださり、ありがとうございました」

 レリーナ・ランヴェラール様――世界的に有名なピアニストの演奏を聴き終えたあとのことです。帰路を進む馬車の中でわたしは、興奮含みで対面へと腰を折り曲げました。
 こちらの方は、本日のコンサートにお誘いくださった方――であり、わたしが所謂片思いを……決して叶うことはない恋をしている人、リベイル伯爵令息レイオン様です。

 わたしがレイオン様をお慕いするようになった切っ掛けは、共通の趣味と共通の夢でした。

 わたし達はどちらも貴族の嗜みとしてピアノを習いはじめ、その過程でピアノが大好きになり、やがてプロのピアニストになりたいと思うようになりました。
 そんな思いで参加したコンクールで――1年前と7か月前15歳の頃に参加したコンテストで初めてレイオン様の音を聴き、一瞬で心を奪われたのです。

 ひとつひとつの指に意思があるかのような、繊細で巧みな技術。
 そんな指が生み出す、優しくて柔らかな、まるで陽だまりを感じる音色。

 それらによってわたしはあっという間に虜になり、気が付くとレイオン様というピアニストに夢中になっていたのです。
 それがわたしがレイオン様を意識するようになった切っ掛けで、そのあとすぐ、恋をするようになった切っ掛けが訪れることになります。

「失礼。アリア・ニーラック様ですよね?」
「え!? はっ、はい! アリア・ニーラックでございます!」

 コンクール終了後に――憧れるようになったばかりの人から、声をかけられる。あの時は、心臓が口から出そうな程に驚いてしまいました。

「貴方の演奏を拝聴していました。貴方が紡ぐ音は羽のようで、聴いてとても心地よかった。素敵な時間をありがとうございます」

 なんとレイオン様もわたしに興味を持ってくださっていて、しかも見習い部分が沢山あると仰られたのでした。

「もしよろしければ今度、ピアノに関するお話しをする時間をくださいませんか? 色々と貴方のお話を聞いてみたいと思っているのですよ」
「わっ、わたくしもお伺いしたいと思っておりました。是非お願い致しますっ!」

 ですので後日会う約束をして、お会いして。練習姿勢や好きな曲などについて、たくさんお話しをして――そんな時間はとても盛り上がり、ありがたいことにレイオン様も楽しいと感じてくださって。
 お別れの際に、次に会うお約束をして――。またお会いして、また次のお約束をして――。
 それらを繰り返しているうちに、自然とピアノ以外のことを――レイオン様ご自身に関することも沢山知っていき、それによって恋をするようになったのです。

 でも――

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