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第16話 ありがとうな 俯瞰視点(1)
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「ありがとうな、セルジュ」
つい数分前までガ―レンド家の人間だった、セルジュ。門の外へと放り出された彼の背中に、聞き覚えのある声がぶつかりました。
大急ぎで振り返ったセルジュの目に映ったのは、雄々しいライオンと人懐っこい犬を合わせたような青年。そこにいたのはかつて友だった、オディロン・アヴィテイルでした。
「お前が最後の最後でミスをしてくれたおかげで、レティシアから罪悪感を消すことができた。ありがとうよ」
セルジュは事故を自然なものに見せるべく、レティシアのもとへと向かう際に――うっかり遅刻しそうになって、慌てていた際に足を滑らせワザと転んでいました。
そのため当時は『その時間を設定した自分のせい』だと感じ、酷く落ち込んでいたのです。
「……オディロン……。それは、嫌みか……? 嫌みを言うために、わざわざ来たのか……!?」
「当たり前だろ。テメェはそれだけのことをしたんだからな」
明るい表情を浮かべていた顔と声音が、一変。激しい怒りに満ちたものとなりました。
「ソコだけじゃねえ。ありもしないクロエとの関係を吹き込んで、レティシア傷つけた。あの程度で許せるわけないだろ。お前を――そして、俺自身をな……!」
右の掌に爪をめり込ませていたオディロンは、突然その拳を振り上げ――それは、自身の右頬にめり込みます。彼は口の中が切れてしまうほどに、全力で自分の頬を殴ったのでした。
「早退したと気が付いたが、泣いているなんて気が付かなかった。妹の異変に気付けないなんて、兄失格だ」
『お兄様、大丈夫ですよ。少し気分が悪くなって、念のためにお休みしただけですので』
『それならいいんだが……。目が少し、腫れてないか……?』
『実は朝に入浴をして、その際にシャンプーが目に入ってしまいまして。痛くて涙が沢山出た影響で、そうなっているだけですよ』
レティシアは悟られないよう両目を氷で冷やしていましたし、それ以外に号泣するような出来事はありませんでした。そのためオディロンは言い分を信じてしまい、それ以上追及はしなかったのでした。
あんなことがあったのに、平然としていた自分が許せない。
親友とクロエの内心に気付かず、レティシアを傷付ける一因となっていた自分が許せない。
そして、もう一つ。彼にはどうしても、自分を許せない理由がありました。
それは――
つい数分前までガ―レンド家の人間だった、セルジュ。門の外へと放り出された彼の背中に、聞き覚えのある声がぶつかりました。
大急ぎで振り返ったセルジュの目に映ったのは、雄々しいライオンと人懐っこい犬を合わせたような青年。そこにいたのはかつて友だった、オディロン・アヴィテイルでした。
「お前が最後の最後でミスをしてくれたおかげで、レティシアから罪悪感を消すことができた。ありがとうよ」
セルジュは事故を自然なものに見せるべく、レティシアのもとへと向かう際に――うっかり遅刻しそうになって、慌てていた際に足を滑らせワザと転んでいました。
そのため当時は『その時間を設定した自分のせい』だと感じ、酷く落ち込んでいたのです。
「……オディロン……。それは、嫌みか……? 嫌みを言うために、わざわざ来たのか……!?」
「当たり前だろ。テメェはそれだけのことをしたんだからな」
明るい表情を浮かべていた顔と声音が、一変。激しい怒りに満ちたものとなりました。
「ソコだけじゃねえ。ありもしないクロエとの関係を吹き込んで、レティシア傷つけた。あの程度で許せるわけないだろ。お前を――そして、俺自身をな……!」
右の掌に爪をめり込ませていたオディロンは、突然その拳を振り上げ――それは、自身の右頬にめり込みます。彼は口の中が切れてしまうほどに、全力で自分の頬を殴ったのでした。
「早退したと気が付いたが、泣いているなんて気が付かなかった。妹の異変に気付けないなんて、兄失格だ」
『お兄様、大丈夫ですよ。少し気分が悪くなって、念のためにお休みしただけですので』
『それならいいんだが……。目が少し、腫れてないか……?』
『実は朝に入浴をして、その際にシャンプーが目に入ってしまいまして。痛くて涙が沢山出た影響で、そうなっているだけですよ』
レティシアは悟られないよう両目を氷で冷やしていましたし、それ以外に号泣するような出来事はありませんでした。そのためオディロンは言い分を信じてしまい、それ以上追及はしなかったのでした。
あんなことがあったのに、平然としていた自分が許せない。
親友とクロエの内心に気付かず、レティシアを傷付ける一因となっていた自分が許せない。
そして、もう一つ。彼にはどうしても、自分を許せない理由がありました。
それは――
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